第8話・辛い現実の温かい言葉
中央広場で起きた事件の解決後。
悔しそうに泣き喚くバルクやお付きの奴らは、始まりの街にある牢獄に放り込まれた。
「アタシはやる事があるので失礼するわ!」
「ああ! 嬢ちゃん、本当にありがとな!」
「ええ! こちらこそ何かお世話になるかもしれないからその時はよらしくね」
「もちろんだ!」
嬉しそうに笑顔を浮かべるドガンを尻目に、ルイセは複雑な気持ちになりながら離れていく。
「……大丈夫かな」
FPSとかならともかく今は痛みとか普通に感じるデスゲーム。
彼女は何かが引っかるのか、苦虫を噛み潰した様な表情になりながら歩みを進める。
(メッセージ?)
ふとメッセージ通知が届いた音が聞こえたで彼女は画面を開きタップ。
差出人はブラストと書かれており、ルイセは心が乱れながら内容を読んだ。
「宿に戻る、って!?」
たった一言のメッセージ。
だがその言葉の意味を瞬時に理解したクルセは、焦る様に泊まっている宿に向かって駆ける。
ーー
スナイパー六人を撃ち殺したブラスト。
彼は苦しい表情になりながらもなんとか宿に戻った。
だが自分の部屋に入った瞬間、体の震えが止まらないのか罪悪感を感じながら涙を流し始める。
「ごめんない、ごめんなさい……」
いつもはポンコツ気味のブラストだが、今回ばかりは精神的にはかなり病んでいるみたいで謝罪の言葉を口にしていた。
(こ、これからどうすればいいんだ?)
デスゲーム主催者を撃ち殺した時よりも生々しい感覚。
周りを助ける為に中央広場にいたプレイヤー達を殺していたスナイパー達を撃ち抜いた。
その事が周りから見ればどう思われるか、その事が頭から離れないブラストはフラフラになりながらベットの中に入り蹲る。
「ど、どうしようもないよな……」
もう死んだ方がマシな気がする。
布団から顔をチラッと出し、壁に立てかけられているスナイパーライフルの方に目を向けた。
(こんな罪悪感を感じるくらいなら)
重く潰されそうな感じ。
それに押しつぶされそうになっているブラストは、青ざめた顔になりながら立ち上がる。
そしてスナイパーライフルを手にかけようとした時、誰かがドンドンとドアを強くノックする音が彼の耳に届く。
「ブラスト! いるなら返事しなさい!」
「この声は……」
冷たく凍った心を壊す様な勢いのある声を聞き、彼は腕を振るわせながらドアを開ける。
そこには心配そうに目をウルウルさせたルイセが立っており、彼女は無言のまま部屋の中に入った。
「お、お邪魔するわね」
「……ああ」
(最後にコイツの言葉だけでも聞くか)
扉を閉めたブラストは椅子に座る彼女を尻目にベットに座る。
そのタイミングで涙を我慢しているのか、ルイセは半泣きになりながらブラストに向かって深く頭を下げた。
「ごめんなさい! アタシのせいで貴方に人殺しをさせてしまったわ!」
「いや……」
(コイツは何も悪くない)
バルクが何かやらかすのは予めわかっていた事。
そこはブラストも理解できているみたいだが、スナイパーを撃ち殺した感覚を思い出して表情を歪める。
「それにアタシが必要な情報を集めていれば今回の事件も起きなかったかもしれないのに……」
「それ、本気で言っているのか?」
「もちろん! だって、アタシは情報屋なのよ!」
ルイセが顔を上げ、鋭い視線を彼に向ける。
その目には強い意志が宿っている様に見え、ブラストは彼女の姿に心が乱されたのか柄にもない大声を出す。
「自惚れるな!」
「! でもアタシがもっと頑張れば……」
「それが自惚れだと言っているんだよ!」
今までマイペースに行動していたブラスト。
彼は何かを噛み締めるように目から涙を流しながら、叱責する様に彼女に向かって言葉を吐く。
「それにお前がどれだけ頑張ろうが今回の事件が起きただろうし、俺が人殺しをしていた可能性が高いんだよ! なのに今更後悔しても遅いだろ!」
「でも、でも! 貴方だって無事じゃないわよね!!」
「それはそう! だけど……」
ベットの端に座っていたブラストはスナイパーを撃ち殺した恐怖を感じ、我慢しようとするがさっき以上に体を震わせる。
ルイセは彼の弱った姿を見て椅子から立ち上がり、彼を包み込む様に抱きついた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
(……)
互いに涙を流しつつ、謝罪の言葉を口にするルイセ。
対するブラストは唇が紫色になりながら極寒の雪国にいる感じで凍りついている。
そして火が傾くまで二人は抱き合い、悔やむように涙を流し続けた。
ーー
二人が落ち着いたタイミング。
そこでルイセがブラストの隣に座りながら遠慮がちにポツポツと言葉を発する。
「少しだけアタシの話を聞いてくれない?」
「ああ、わかった」
「ありがとう! って、どこから話そうかしら……」
(長くなりそうだな)
少し悩んでいるのか、彼女は口に手を置きながら難しそうな表情を浮かべる。
「まずアタシが情報に拘っている理由を話しても大丈夫?」
「別にいいが」
「了解、リアルの話も交えて話すわね」
「ああ」
ルイセはベットに置かれたブラストの手を握りつつ、顔を強張せながら続きを話す。
「きっかけはお父さんが記者で口癖が“情報が多い物が場を制する”だったよね」
「ほうほう。それで情報屋をやっているのか」
「ええ、ついでにそっち系の大学にも入学したわ」
(なるほどな)
さらっとルイセの年齢が判明した気がするが、彼女自身は気にしてないのかニッコリと明るい笑顔を浮かべた。
「そこがキッカケでお前は情報屋をやっているんだな」
「ええ! まあ、情報屋としては新人だけどね」
「マジかよ……」
βテスト時代。
情報を集めるならルイセが一番と言われていた程の凄腕だったのに新人と言われ、ブラストは驚いたのか口を大きく開けた。
(色々突っ込みどころはあるが)
内心で思うところはあるのか、予想外の展開に彼の心は乱されているみたいだ。
だが彼女は笑顔のまま次の内容に進んでいく。
「だからさ、今回の件も防げると思ったのよ」
「……それは」
「でもね。貴方に怒られてアタシだけじゃ無理だとわかったわ」
自分の傲慢さ。
それを理解したのか痛々しそうな笑みに変わった彼女は、改めてブラストの方に視線を向けながら一言。
「こんな事を言える立場じゃないのはわかるけど、アタシと相棒(バディ)を組んでください!」
「……わかった」
「!! ありがとう!」
今日の出来事。
それは二人の中で大きな傷になる物だったが、それと同時に仲が深まっていくのだった。
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