第7話・人殺しの定義

 最初はバルクを批判しているプレイヤーが多かった。

 だがバルクが取った行動で中央広場に集まっていたプレイヤー達が、次々と撃ち殺される地獄絵図が広がっていた。

 

「こ、こんなことになるなんて……」


 死ぬのが怖いのか涙を流しながら平伏する赤髪の少女プレイヤー。

 しかし中央広場から逃げ出そうとするプレイヤーが残っているのか、容赦なく銃弾を浴びせられては彼・彼女らの体は光になって消えていく。

 

「助けてブラスト」


 彼女の願いは、中央広場をスコープで覗いている一人の凄腕スナイパーの元に届いた。


「こんな事になるなんて」


 そのプレイヤーはレンガ状の建物の屋上におり、彼は中央広場に弾丸を飛ばしているプレイヤー達を見つける。


「アイツらか」


 見た感じスナイパーは二箇所に三人ずつ。

 相手の腕自体も悪くはないが余裕そうに舌なめずりをしており、まるで動物狩りを楽しむハンターのようだ。

 

(さてと……)


 このままスナイパー達を自由にさせると相方にまで被害が飛ぶかもしれない。

 そう考えた最強の狙撃手・ブラストは氷の様に冷えた思いでスナイパー達に向かって引き金を吐く。


「ファイア」


 淡々とした一言、だが怒りと重さが感じられる鋭い声。

 その言葉と共に放たれた弾丸は、余裕そうに引き金を引いていたスナイパーの頭を貫いた。


(次!)


 相手のスナイパー達は仲間の一人が光になって消えたところに驚いているので、ブラストはもう一度引き金を引いて別のスナイパーの頭を撃ち抜く。


「流石に気づくか」


 仲間が倒れた事に気づいたスナイパー達は顔を真っ青にしながら詮索を始めたみたいだ。

 でも、相手の動きを予想していたのかブラストは隠蔽のスキルを使いながら身を隠す。


「ここからじゃアイツらの声は聞こえないよな」


 足早に移動しつつ、違う場所の屋根に登ったブラスト。

 彼は人を撃ち殺した罪悪感で吐きそうになっているが、なんとか我慢しながら銃口を向けて引き金を引いていく。


「これで最後……」


 最後の一人を始末したブラストは苦い顔をしながら、自分が撃ち抜いたプレイヤー達がいた場所を見る。


(人殺しは)


 FPSで散々プレイヤーキルをしてきたブラストだが、デスゲームで人を殺したのは主催者を除けば初めて。

 人殺しの感覚に嫌悪感を覚え、地面にしゃがみ込んで胃に入っていた物を屋上に吐き出した。


(ま、まだやる事があるのに)


 ルイセに言われた通り中央広場には行かずに待機していたのは良かった。

 だが、相手が悪とはいえ人殺しをしないといけないなんて……。

 ブラストは胸に込み上げる気持ちを誤魔化す様に、なんとか体勢を整える。


「アイツにスナイパーを倒した事だけは伝えないと……」


 壁にもたれかりつつブラストはフレンド画面で彼女が無事なのを確認して、左手で口を押さえながらメッセージを送った。


 ーー

 

 一方。

 自分の読みが甘かったと思い後悔しているルイセに相棒からのメッセージが届く。


「ぶ、ブラスト……」


 届いたメッセージには、スナイパーは対処したと書かれていた。

 彼女は震える足に力を入れ、歯を食いしばりながら立ち上がる。


(こ、これなら!)


 ブラストが動いたおかげで、バルク達が合図を出しても誰も撃ち抜かれてない。

 チャンスだと思ったルイセは腹の中に力を込めた後、周りに響く様に力強く叫ぶ。


「みんな! アタシ達を殺そうとしたスナイパー達は死神が全員殺したわ! だからアイツらに復讐するわよ!」

「「「!!」」」

「なっ、そんなわけないだろ! おい、あの赤髪の女を撃ち殺せ!」


 この状況をマズイと感じたのか、パニック気味のバルクがお付きのプレイヤーに指示を出す。

 だが彼らが黙って見ている物、それはフレンド登録されているスナイパー達の名前がグレーになっているところだ。


「ば、バルクさん! スナイパーが誰かに殺されてます!」

「なっ、そんなバカな事があるか!!」

 

 最初は余裕そうな表情を浮かべていたバルクだったが、今や見る影もない醜い姿に変わっていた。

 広場のプレイヤー達は次々と立ち上がり始め、恐怖に震えていた気持ちを怒りに変えながら武器を手に取る。


「アイツらをぶっ殺せ!!」

「「「おう!」」」「「「ええ!!」」」

「! お前ら、オレが逃げるまで時間を稼げ!!」


 仲間を盾にして逃げようとするバルクだったが、怒りが爆発したプレイヤー達に周りを包囲された。


「さっきはよくもやってくれたな」

「お、オレはβテストのエリートなんだぞ!」

「そんなのは関係ないわ!」


 イラついたバルクは腰に掲げられていた初心者用の片手剣を勢いよく引き抜く。

 しかし、ハンドガンを装備しているプレイヤーにあっけなく足を撃ち抜かれ、彼は痛みで地面を転がった。


「ギヤヤァ!?!? お、オレの足が!」

「お前ら、コイツらに本当の地獄を味合わせるぞ!」

「ヒィィィィ!?」


 指揮を取るスキンヘッドの男性の言葉を聞いたプレイヤー達。

 彼らのほとんどは強い怒りを目に灯しており、武器を握る手にも力がこもっていた。

 そんな中、涙で顔がぐちゃぐちゃになったバルクが悔しがりながら言い訳の様な言葉を吐き出す。


「も、元と言えば他人任せなお前らが悪いじゃないか! オレはあくまでこのデスゲームを攻略しようとしていたんだ!」

「確かにそうかもしれない……だが、お前らは罪のないプレイヤー達を殺したんだぞ」


 言い訳の言葉を口にするバルクに、スキンヘッドの男性は両手剣を彼の首元に突き出しつつドスの聞いた声を放つ。

 それを聞いたバルクは絶望し、ガクガク震えながら泡を吹いた様に地面に倒れた。


「さてと、お前らはこいつらをどうしたい?」

「それは……ドガンさんはどう思いますか?」

「質問を質問で返すなよ。まあ、最低でも牢獄に放り込みたいな」


 ドガンと呼ばれたスキンヘッドの男性。

 彼は呆れた様にため息を吐いた後、地面に倒れて漏らしているバルクの体を縄で縛り軽々と背負う。

 そしてドガンは最初に声を上げた赤髪の少女、ルイセの方に視線を向けた。


「お嬢ちゃんのおかげで俺達は恐怖から解放された。遅くなったが感謝する!」

「いえ! アタシだけの力じゃないわ!」

「ハハッ、死神っていいやつなんだな」


 カラカラと嬉しそうに笑うドガンと苦笑いを浮かべるルイセ。

 二人は互いに握手した後、プレイヤー達がバルクのお付きを全員捕まえた事を確認。

 人殺しを起こした彼らを牢獄に放り込む為にドガン一行&ルイセは動き始めた。

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