第6話・全体チャットと本当のクズ共

 相手の問いに難しい表情を浮かべているブラストだったが、突然全体チャットの通知が届いたのでルイセと共に目を見開く。

 

(このタイミングで来てくれてよかった)


 話が逸らせると思い、ブラストは相手にバレない様に内心でホッとする。

 その代わりルイセの方を見ると、彼女は少し不服そうに爪を噛み始めた。


「ねぇ貴方の方にもよくわからない全体チャットが届いた?」

「ああ」


 差出人はバルクと書かれており、ブラストはうっすらと何かが引っかかるのか頭を傾ける。

 だがルイセの方は何か知っているのか、彼女にしか見えないステータス画面をじっと見ながら強めの言葉を放つ。


「あの金鋼(ゴールドメタル)からの通知なんてね」

「……確かβテストの時の攻略組でエリアボスをソロで倒していた奴か」

「そうそう! まあ、良いところの坊ちゃんみたいな感じであまり思い出したくないけどね」


 バルクと呼ばれるプレイヤーに何か嫌な思い出があるのか、彼女はイライラしながら爪を噛み続ける。

 まるで宿敵にみたいな感じだが、ブラストもバルクの行動を思い出したみたいで苦しむ様に頭を抱えた。


「通知を見た感じログインしているプレイヤー達に演説するつもりみたいだな」

「だと思うわ。でも嫌な予感しかしないのよね」

「それは同感だ」


 互いに心底嫌そうな表情を浮かべていると、ルイセが一つため息を吐き気持ちを少し落ち着かせる。

 そして外から見ればニッコリとした笑顔を浮かべているが、目が笑ってない冷たい表情を浮かべた。


「あまり行きたくないけど聞きに行かない?」

「……」

「貴方の行きたくない気持ちもわかるけど情報屋のプライド的に見過ごせないのよ」


 ブラストの気持ちを理解しつつ情報屋のプライドがあるのか、彼女は心底嫌そうな表情で頷く。

 その姿を見たブラストは呆れた様に両手を上に上げながらため息を吐く。


「わかった」


 この一言を聞いたルイセが赤い瞳を光らせながら彼の手をとる。

 その顔は一緒に戦地に向かう同胞を見る目だったので、ブラストは巻き込まれた感じになり冷や汗を流し始めた。


「行くわよ」

「あ、ああ」


 バルクが指定した集合場所は中央広場。

 ここはデスゲーム主催者が撃ち殺された所なのだが、大勢のプレイヤーが集まれるのはここしかない。

 そのためブラストはデスゲーム主催者を撃ち殺した事を思い出し、吐きそうになりながら彼女と共に部屋から出ていく。


 ーー


 全体チャットの通知からプレイヤー全員に届いてから約一時間後。

 始まりの街にある中央広場では、全体チャットを受け取ったであろうプレイヤーが千人ほど集まっていた。


「ここで合っているよな……」

「通知ではそう書かれているぞ!」

「それよりも! セーフティがないのに呼び出すのは頭がおかしいわよ!」

「それはそうだ!」


 広場に集まるプレイヤー達は各々に叫んでおり、一部では暴動が起きかけている。

 そんな中、一人の青年アバターが眩しそうな笑顔を浮かべながら置かれた台の上に登っていた。


「みんな集まってくれてありがとう! オレはバルク、元βテスターでこのデスゲームを攻略する者だ!」

「は? 初期装備で何を言っているんだお前は!」

「元βテスター? さぞかし良い情報を持っているんでしょう!」


 用意されたメガホンを片手にバルクはハキハキとした声で叫ぶ。

 だが周りにいるプレイヤーの大半は怯えた恐怖が混じった感じの表情を浮かべ、壇上に立つ彼を強く批判していた。

 

「静かに! 確かに君達の意見もわからない事はないけど言うだけなら何もしなくてもいいよね」

「てめぇ! おれ達に喧嘩を売っているのか?」

「さあね? でもお前達の命はオレが握っているのがわからないのかな?」

「「「!?!?」」」


 バルクから放たれた重い言葉。

 それもそのはず、バルクは事前に街中にスナイパーを配置しており余裕そうな表情を浮かべる。


「まあ、君達がどんな判断をするかはお任せだけどね」


 この一言を聞いたプレイヤー達は顔を真っ赤にしながらバルクに向かって罵詈雑言を放つ。


「何を一体……。お、お前だって結果を出してないのによく言えるな!」

「さっさと殺してやろうか?」

「そんな事はいいからあたしをこのゲームから脱出させなさい!」


 この言葉を聞くバルク。

 彼はプレイヤー達の暴言を耳にしながら自慢っぽいサラサラの金髪を揺らす。

 その後、爽やかな笑顔を浮かべながら彼は指を鳴らした。


「撃て(ファイア)」

「!? グハァ!」

「「「!?!?」」」


 この一言でどこからともなく銃弾が数人のプレイヤーに直撃。

 そのまま銃弾に貫かれたプレイヤーは、血を吐きながら地面に倒れ体が光になって消える。


「キャアア!?」

「こ、こいつら人殺しをやりやがった!」

「に、逃げろ! って、後ろから押すな!!」


 一発の銃弾。

 だがその一発が集まったプレイヤー達をパニックにさせるには充分だった。

 これを見たバルクは逃げ惑うプレイヤー達に対して、ゴミを見る様な視線を向けながら声を荒げる。


「逃げるな! 逃げようとすると合図して撃ち殺すぞ!」

「「「!?!?」」」


 この言葉で固まるプレイヤー達。

 彼・彼女達のパニックは頂点に達しているみたいで涙を流している者も……。

 バルクやお付きはどん底に落ちているプレイヤー達を見ながら、優越感に浸っているのかいやらしい笑みを浮かべた。


「君達が取れる手段は二つだ。ここで僕達の下僕になるか、ウチの天才スナイパー達に撃ち殺されるかだ!」

「そ、そんなの横暴だろ! ぼくは、ガハッ!?!?」

「誰が発言を許した?」


 お付きのやつが誰かにメッセージを飛ばし、それを受け取ったであろうスナイパーが反論するプレイヤーを撃ち抜く。

 まるで地獄絵図、というよりもここに来なければ良かったと思っているプレイヤーが次々と震えながら地面に膝をついた。


「い、命だけは助けてください!」

「ごめんなさい、ごめんなさい!?!?」

 

 中には震えすぎて漏らしているやつや、意識を失いそうな奴もいる。

 そんな最悪な状況でもバルクやお付きの奴らは余裕そうに笑っていた。

 

「さあ、最高のチームをつくろうじゃないか!」


 この言葉で立場が決まったのか、バルクとお付き達は最高の気持ちになっているみたいだ。

 だが、その優越感や余裕も一人の凄腕スナイパーのせいで崩壊するとはこの時は思ってもいなかったみたいだ。


ーーー

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