こういう愛のかたち、素敵だと思います。

『紅艶 〜椿売と鎌売〜』の後半の主人公、鎌売の兄、億野麻呂の愛の物語です。
かつて袖にされた池田君久君美良が忘れられない億野麻呂、その面影を残す彼女の妹、阿耶売に求婚します。すると、阿耶売も、その妹の之伎美も億野麻呂のことを望み……。

どんなに仲睦まじい男女でも、互いを100パーセント理解しあえるわけではありません。その不完全さに苛立ちや焦りを感じてしまえば、たとえ一対一の男女であっても、幸せにはなれません。むしろ一対一のペアであれば、自分が得た男/女だという意識は強くなりがちなのではないでしょうか?一夫一婦制には、いつの間にか相手を束縛し破局に導いてしまう、ひとつの道筋がしのんでいるものなのかもしれません。

翻って、一対複数なら? この物語のように、仲の良い姉妹で一人の男を愛するのであれば、自分が男の唯一の存在だという認識を募らせることもなく、愛する人と自分との間にほどよい距離感を保てるかもしれません。

なかなかに考えさせられる物語です。

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