雷な鳴りそね 〜億野麻呂の優雅な生活〜
加須 千花
第一話 けして二人ともと思っていたわけでは……。
オレなら平気だが、愛しい子を怖がらせない為に。
万葉集 作者未詳
* * *
一回目は、正確に言えば、まだ妻になる前。
億野麻呂は十八歳。
まだ
十六歳になったら、婚姻したい、と、申し込んだ。
池田君の両親に挟まれた
「いや!」
突然、
「
そう言って、
「
慌てた様子の
「泣かないで、
「ええっ!」
億野麻呂も驚いたし、それぞれの両親も驚いたし、近くに控えた
「あの……、気持ちは嬉しいけど……。」
正直、
そんななか、年齢が上の
どっち? どっちを選べば良いの??
「……すまない、オレは選べない。」
「選ぶ必要はございません。二人ともまるごと愛してくださいませ。」
「えええ───!」
その後は、本当にそれで良いのか、考え直せ、と向こうの両親が説得を試み、こちらの両親は成り行きを見守った。
「
婚姻は、あと二年、お待ちください。
とまでハッキリと言ったので、
億野麻呂はふっと笑った。
億野麻呂は、潤んだ大きな瞳、女らしい優美な顔立ちが好みである。
この姉妹は二人とも、そうである。
そして、中身は愛情の濃い
濃ければ濃いほど良い。
億野麻呂は、愛情を尽くし合う両親を見て育ち、自分も、親を愛し、
姉を信頼し、頼る
ここまで言うのだ。
二人の好きにさせてやれば良いではないか。
「いいですよ。
嫁入りの持参の品は、最低限で結構です。こちらからは、しっかりお二人ぶん、金二十両をお納めしましょう。
良いですよね? 父上?」
父上はくりっとした目で人懐こく微笑み、頷いてくれた。
「ワーホーイ!」
破格の条件に、向こうの両親がそろって、お茶目がすぎる声をあげた。
息ぴったり。やっぱり、向こうの両親も仲良しなんだね、と億野麻呂はおかしくなってしまう。
「ありがとうございます。では、二人とも、妻としてくださるのですね……。」
と言い、
「我儘を言い、お許しください。でも、でも、あたし、本当に恋うているんです……。」
と姉に抱かれながら、身体を小さくして震えるので、億野麻呂はニッコリ笑いかけた。
「嬉しいよ。ちゃんと待ってるから、健康に気をつけて過ごしなさい。」
そう言うと、
浮かべた笑顔は、この世のものとも思えないくらい、可愛かった。
「億野麻呂さま、あたし達姉妹、深く感謝申し上げます。やっぱり、億野麻呂さまで良かった。
心より、恋い慕っておりますわ。」
そう言って、光がにじむような眩しい笑顔を浮かべてくれた。
億野麻呂は、そのまっすぐ向けられた感謝の気持ちに、胸がポワっと温かくなった。
良い事をした。うんうん。
それまで無言でニコニコしていた億野麻呂の母刀自が、笑顔を深くしながら、
「億野麻呂、良い
と億野麻呂に言った。
それを聞いて、やっと億野麻呂にも実感がわいてきた。
(姉妹で妻ってどういうこと───?!)
「ぜひとも、屋敷は、姉妹で一緒に住まわせてください。」
と澄まして言う。億野麻呂は、なんだか、頭から血の気がさあーっと引いた気がした。
「一緒……? 妻二人が、一緒の屋敷に住むなんて、聞いたことがないですが……。」
妻二人と自分、三人で住むの?
え……? どういう事?
何がどうなるの?
「あたし達、今まで支え合ってきたんです。一緒に暮らしているのが幸せなんです。」
遠慮がちに、でもハッキリと
億野麻呂が返す言葉が見つからず、無言になってると、億野麻呂の母刀自が口を挟んだ。
「ほほほ……。良いでしょう。良い広さの屋敷を見繕いますわ。二年あるんですもの。何も心配なさらず、二人で嫁いできてくださいな。」
そうして、あっという間に、その縁談をまとめてしまった。
池田君の両親も、
縁談がこんな結果になろうとは。
一人、妻に下さい、と申込みにいったら、二人、妻にする事になって、帰ることになった。
なんだか、ふわふわ、地に足がつかない気持ちで、十八歳の
帰り道、母刀自は、
「顔を見ればわかります。あの姉妹は、本気で億野麻呂を恋うてくれています。大事なのはそこ。そこだけよ、億野麻呂。……今日から心がけて、体力をつけておくことね。ほほほ……。」
と上品に笑った。
↓挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330665872024217
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