第二話 姉・阿耶売、同母妹・之伎美
よしゑやし
もういいわ、恋なんてしない。
そう決意するのに、秋風が寒く吹く夜は、あなたを想ってしまう。
万葉集 作者不詳
* * *
初夜は、まず、姉の
おずおずと、顔を赤らめながら恥ずかしそうに身体を開く
───このような
たどたどしく足を開き、
「億野麻呂さまっ。」
と自分に抱きつきながら果てた
きっと、億野麻呂のせいではない。
億野麻呂は思い当たることを、口にした。
「……
「……ええ、そうです。大好きな姉でした。あたし達、三人、いつも一緒に育ったんです。
……
あたしと
姉が黄泉渡りしてしまい、あたしは姉のぶんも
どうして……、人は黄泉にいってしまうの。」
といつもの凛々しい顔ではなく、弱々しい、儚げな様子で涙をこぼした。
「
これからは、
たとえ、
そう、億野麻呂が
「はい。億野麻呂さまは、本当に素敵な方です。
億野麻呂さまの妻になれて、
と返事をして、億野麻呂の胸に顔をうずめた。
「褒められすぎだなー。」
あおむけの億野麻呂は照れて笑う。
褒められて悪い気はしないけど、億野麻呂はいたって普通の
まあ、名家の生まれではあるけどさ……。
それだって、
「こっちこそ、そこまで慕ってもらえて、嬉しいよ。
「はい。」
億野麻呂は、
手入れの良く行き届いた、黒く艶のある髪の感触が、さらさらと指に楽しい。
「……こうしてもらうの、好きです。億野麻呂さまの手は、とっても気持ちが良い……。」
「そう、じゃあ、沢山、
「はい、お願いします……。」
そうして、億野麻呂はたくさん
しばらくしてから、ぽつっと
「……はじめ、億野麻呂さまは、久君美良姉さまを望んでいらっしゃった。
……あたしは、億野麻呂さまに恋をする立場じゃない。
あたしに許されるのは、億野麻呂さまは素敵な方ね、と、
……それが、辛い事があって。
もう恋なんてしない、と思った時期もありました。
でも……。」
「ずっと、心のどこかで、億野麻呂さまをお慕い続けていました。
億野麻呂さまは、素敵な方だから……。
夜、風の強い音に目が覚めると、一人ぼんやり、億野麻呂さまの面影を思い出す時があったんです。
不思議ですね……。
億野麻呂さま……、触らせてくださいまし。」
(ちょっと恥ずかしいなぁ。)
やめてくれよ、と本当は言いたかった億野麻呂だが、なんだか、
「これが……、あたしの身体と繋がったなんて。あたしが、こうやって、億野麻呂さまの隠されたモノを、手で触れる日が来るなんて。思ってもみませんでした……。億野麻呂さまのこれは、あたしと、
野暮は言うまい。
「そうだよ。」
億野麻呂は優しく肯定する。
「嬉しいです……。夢みたい。」
「それにしては、オレは二年待たされたね?」
くすっと笑いながら、億野麻呂がちょっと意地悪を言うと、
「……それは、お許しください。億野麻呂さまを恋い慕っていなかったわけではないのです。
むしろ、あたしの心は、億野麻呂さまから求婚されて、舞い上がっていました。
でも、どうしても
お怒りでしょうか?」
「そんな事ないよ。」
「あ。」
億野麻呂はにっこり笑いながら、
ぽふ、と上等の綿の布団に、
「ちょっと言ってみたくなっただけだ。
まったく気にしてないよ。
「億野麻呂さま……。」
感極まったように、
億野麻呂は、その形の良い柔らかい唇を、己の唇で塞ぐ。
「ん。」
とろんとした目になった
「あのね、あまり
と、初夜にして二度目のさ寝に持ち込む。
「はい。」
と恥ずかしそうにした
そして、二人で朝まで幸福な眠りについた。
↓挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330665872172404
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