白黒映像の中に一色だけ色を残すカラーエフェクトがある。擬似的なモノクロ映画の中で、倒れた人物から流れる血の色だけが鮮烈な赤色を呈していたり、グレー調の食卓の上で、たとえば醜悪な夫が口から吐き出して皿の縁に指でなすりつけるグリーンのガムだけが芋虫のようにヌラヌラと光っているとか。
閉ざした心のフィルターが、すべてそのまま世界の色を失わせていく。
本作は、文章によるカラーグレーディングに成功している稀有であり、かつ秀逸な逸品。
心酔するほど慕っていた姉への気持ちがゆっくりと躍動を失い、乖離したまま凝り固まり、そしてまたゆっくりとほぐれていく。
影を用いたラストに至る筆致は、非常に丁寧で、違和感なく、どの描写にも説得力がある。
すばらしかったです。
ありがとうございました。