淡々と、それでいてしっとりとした文章がとても読みやすくて主人公「藍子」の心の機微まで伝わるようでした。
留学生の青年「マーク」との出会い、会話、食事、そして過ち。ふたりがとても純粋で、まっすぐな心のうちを語っているからでしょうか……不倫を扱った作品だというのに、とても清々しいものが漂っている風に感じました。
物語が進むにつれて、藍子の置かれている環境や心の内が明らかになっていきます。私は藍子の考え方や行いは、決して「悪い」とは言い切れないのではと思いました。
もちろん正しい事ではありません。藍子も自分のしてしまった過ちを、とても後悔しています。
それでも彼女にとってその過ちは必要な事で、マークという心通わせる事ができる相手がいたからこそ……自分のために人生を生きる一歩を、踏み出せたのではないかと感じました✨
男性は共感しにくいかもしれません。でも、男性にも読んで頂いて、何かに気づいて欲しいですね(笑)
素敵な作品を読ませて頂き、ありがとうございました😊
まず、正直に言えば、私には書くことができない小説です。
心情描写というより、心の移ろいを描くことがテーマのような小説に思えまして、その変化の流れがエモい感じがします。なんというか、ドストエフスキーをかなり薄めた感じですが、そんな印象を私は受けました。なんというかなぁ、心の葛藤の物語というか、心の本当の在り方というか、そういう物語になっています。
ただ内容は、人によっては敬遠しちゃうかなって感じです。女性は大丈夫だと思いますが、男性は少し拒否反応があるかもって感じです。どうですかね? 大人の女性、うーん、子育てが落ち着いた大人の女性が、ゆっくりと色々考えながら読むってのが、この小説の一番の楽しみ方だと思います。
あ、あと、もちろん、文句なくエモいです。そこは保証します。
小雨が降っている。外濠近くのカフェ。外の緑が見える窓際の席に、こちらに背中を向けて座っている女性。
首から肩がほそく、まだ学生のような趣きがある。
背は高めで、カシミヤが似合うだろう。化粧は薄いが丁寧だ。
紅茶がはこばれてくる。
横顔がとくにいい。
目立たないが美人。そんな女性像がありありと眼に浮かぶ。
ここまでくれば小説としては成功したようなものだ。
品格のある落ち着いた文章がたいへんに心地よく、いつまでも浸っていたくなる。
主人公は藍子。小学生の一人息子と夫と暮らしており、司書の産休の穴を埋めるために大学図書館を手伝っている。
学生時代の愛読書はドストエフスキー。
夫との仲はすでに冷えているが、息子のためにも家族の形態を維持している。
通える場所に暮らす藍子の母親はやや我儘、娘が自分のために都合をつけるのは当然と想い込み、想い通りにならないと心配するふりをしながら家に押しかけてくる。
他者の感情に配慮する能力が極度に低いデリカシーのない女親で、どんなに説明したところで、やはり理解は届かないというタイプだろう。
感情を閉ざして生きてきた藍子のもとに、シンガポールからの留学生マーク・チャンが現れる。
十七歳も年下の若々しい青年は、十七歳も年上の藍子に、男らしさを覗かせる。
跡取り息子のマークもまた、人生を最初から閉ざされて生きており、『選ばされている道』を生きていた。
この小説は不倫を書いたものではなく、人生を固められて生きてきた人間の心の解放をうたっている。
少女たちに対してかくあれかしと望まれる白いワンピース姿は、女性の行動を制限するものではなく、さあ想い切り汚しておいでと送り出される為のものなのだ。
さあ想い切り汚れておいで。
自ら選んだその汚れは心の澱をすくい上げ、高い空へと放つだろう。
小雨が降っている。窓の外を眺めながら注文した紅茶に口をつける女性の後ろ姿。
その背筋は、もう以前の彼女とは違うのだ。
本作の場合はきっと「あるものに心を奪われて理性を失うさま」でしょう。
先ほど最新話を拝読して、「うわあ……ああ……」と思わず声がもれてしまいました。
この物語の舞台や背景はきっと、誰にとっても身近なものに思えます。
だからこそ、主人公の台詞、心理描写が静かな迫力を持って訴えてくるのです。
落とし穴という言葉を「陥穽《トラップ》」と取るか「避難所《シェルター》」と取るか。
まだ連載中なので、この物語の行きつく末は分かりませんけれど、主人公である藍子とその周りがどう変化していくのか、ドキドキしながらも楽しみに拝読していきたいと思います。
そして、一人でも多くの方とこの思いを共有出来たらいいなと思っています。