第13話 三度の来訪
「鎌倉健くん。2年B組の鎌倉健くん。職員室に来てください」
巨大な岩の石像と戦った翌日。僕は昼休みに読書をしたいたら呼び出しを受けた。
なんだろう。
「失礼します……」
呼ばれるままに職員室へ向かった僕を待っていたのは、あの黒服だった。
「鎌倉健くんだね。少し話をさせてもらえるかな」
対応した教師が応接室まで二人を案内。一礼してそっとドアを閉じる。
「どうぞ、掛けて」
「はい」
黒服に促されるままに僕は応接室のソファに座る。なんだか緊張する。
「久しぶり、で間違いないかな。君は、私のことは覚えているだろうか」
「はい」
「結構。それなら前置きはいらないな。単刀直入に聞くが、タイムマシンはどこにある」
「タイムマシン?」
予想にしていない言葉に、僕は戸惑った。
タイムマシンといえば、明星瀬都奈のことがすぐに思い浮かべられた。しかし、あの出来事は半年も前のことであり、さらに現実では何事も起きなかったことになっている。僕の中だけのストーリー、誰にも公開されることのない真夏の自主制作映画のような秘密出来事だと思っていた。
「そうだ。現在、再び未来人からの攻撃を受けている。我々は明星による犯行であると考えている」
「そんな! ーーだって、あれは半年前の……?」
「そうだ。君の考えている通り、もう終わったはずの事だ。無論、半年前の出来事は極一部の人間しか知らないトップシークレット事項とされている。歴史には刻まれていない出来事だ。存在すらしないことになっている」
「それならなぜーー?」
「それはこちらが聞きたい話だ。何故今になって再び? すでに終わったことではないのか、と」
「攻撃って、具体的には」
「それは答えられない」
「そんな……」
「もう一度聞く。タイムマシンはどこだ。明星瀬都奈はどこにいる」
「知らないよ。ぼくは、知りませんよ。そんなこと。わからない……瀬都奈のことは、もう何も」
「そうか。時間を取らせて済まなかったな」
黒服はそう言うと立ち上がり、帰る素振りを見せた。
「あ、あのーー」
「なんだ、思い出したのか」
「いえ、そうじゃなくて。そうじゃなくて、僕にも教えてほしいんです。今何が起きているのか」
僕は知りたかった。瀬都奈が今どこで何をしているのか。きっと未来に帰ってどこかで暮らしているんだろうと思っていた。でも、そんな話が出てきたら気になるじゃないか。僕は、できるなら、その、会いたかった。また瀬都奈に会えるのなら、会いたかった。そう、僕はーー。
「何を知っている、少年」
「ここ最近のことを話します。聞いていただけますか」
「もちろんだ。そのために来たのだから」
喫煙、構わないか?
黒服は了承をとって煙が僕へ向かないようにしながら吸いながら話を促した。
※ ※ ※
「ーーなるほどな。ある日突然街中の石像が動き出し、しかもそれは君にしか見えない。戦いのあとに崩れた岩であれば世間の人は見ることができるが、それまで。なるほど。わかったよ、ありがとう。しかしその鳥の行動というのには、意味があるのだろうか……」
「タイムマシンと関係がありそうですか?」
「ああ。君の話を聞いたところ、これはもう話していいと判断して話しておくが、実は海外でも似たような事例が報告されていてな」
「石像が動いたんですか?」
「いや、壊れたんだ。最初は誰かのいたずらだと決めつけていたんだが、どうにも不自然な点が多くて。もしかしたら何か関係性があるかもしれない。ありがとう。君の倒したという石像の欠片も後で調べさせるよ」
「僕はこれからどうしたら……」
「なに。君が気にすることはないさ。あとは大人たちがなんとかするさ。それが社会というもの。話の限りじゃ、タイムマシンに関して君は本当に何も知らないみたいだしね」
「そうですか……」
「では、また。君にはこれからも協力してもらうことがあるかもしれない」
黒服は去り際に「ないかもしれないがな」と付け足して部屋を出ていった。
それから僕は教室に戻り、午後の授業をうわの空で受け、そして放課後になって帰路についた。無論、今日も公園に来て、変わらず動いている石像の鳥を観察している。しかし、なんだろう。このざわついた気持ちは。不安定な心持ちは。あの黒服に言われたことが、何かそんなにも気になるのか。ああ、それはそうだろう。明星瀬都奈がまだいるかもしれない。僕は彼女がもう未来の彼方へ帰ってしまい、二度と会えないものだとばかり思っていたから、それはそうだ。しかし未来からの、第三世界の何者かによる現世への攻撃が半年後に再開されたというのは、何か違和感を覚える。
あのとき。最後の戦いのとき。機体『REIWA』に乗って瀬都奈に変わって敵を撃退したあのとき。僕は本当に敵を倒したのだろうか。あれは何の敵だったのだろうか。僕は結局わからないまま、ただ瀬都奈に対峙しているという理由だけで倒したが、しかしそれは正しい行いだったのか。今になって考えてしまう。いや、あれは正しかったんだ。僕は自分に言い聞かせる。あのとき瀬都奈が何かと戦っていたのは確かだし、僕は世界を敵に回しても瀬都奈の味方になるのだと、あのとき決めたのだ。たとえ倒した相手が正義だろうと、悪だろうと構いやしないじゃないか。そうだ、そうさ。僕は結果として瀬都奈を救ったじゃないか。僕はそう思い込むことにした。そう考えることに改めてした。そうでないと、瀬都奈が望んでいなかったかもしれないという、最悪の考えがどこかで僕を見ているような気がしてならないのもまた、事実としてそこにあることを否定できなかったから。
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