石像大戦編
第10話 ストーンバード
これはその後のお話。後日譚で後日談。後付のお話。
長い長い、だけど一瞬のような、刹那のようなお話の続き。
僕が子供から大人になるまでの、あれから少し先だったり少し前だったりする時間軸のお話。
それは未確認飛行物体事件から半年後だった。
今度ばかりは説明のつかない出来事が僕を襲っていた。
石像が動き出したのだ。
街を歩けば見つけられる石像。いつ、誰が作ったのかもわからないが、芸術になんて興味のなさそうな忙しない世間にぽつりぽつりと置かれている彫刻。きっと地元ゆかりの芸術家の作品なんだろうけど、中学生二年を終え、三年になろうとしている坊主には難しい代物。そう。あの街に置かれている石像の彫刻だ。おそらくそこの通行人に作者を聞いても答えは同じく「わからない」だろう。そんなのに興味のあるのはごく一部だろう。そんな石像が突然動き出したら。そしてそれがまたもや僕にしか認識できていなかったら。
最初は夢だと思った。
ゆーふぉーを見たときと同じ幻想だ、幻だ、妄想だと思った。しかし、大きな嘴を備えたプテラノドンのような鳥が動き出し、樹に止まったとき、枝が落ちたのがこれは現実だと語っていた。その枝は拾うことができたし、触ることもできた。現実そのものだ。鳥は首を傾けながらこちらを見ている。様子を見ている。
まじか……。
ニメートルをゆうに超えるその巨大鳥は存在しない羽の毛づくろいをしている。石だから羽なんてないのに。毛なんてないのに。
口を開いて必死に何か鳴いているが、しかし声は出ない。石像だから。石だから。
しかしこれに関してそれ以上のことは無かった。見えないものが見えるようになったというだけで、何か危害があるとか、危険があるとか、世界の危機になるとか、そういうのは何もなかった。石の鳥が動く。街に出かければそれを見ることができる。それだけだった。傍から見れば石像をぼうっと見ている男の子にすぎない。平和な一ページでしかない。だから僕はまた彼を呼んだ。彼が一番その世界に近い存在だから。
「エデン。今回のはどう思う?」
「どうって、何が」
「石像だよ。鳥の石像。あの二メートルはある巨大でクチバシが丸くて太い特徴的な石像の鳥。あれはただの石像で、動くことなんてのは生物じゃないからありえないのに、なんで動いて見えるんだと思う? ほら、今も台座から僕のことを見ている」
「君はいいのかい? 独り言をぶつぶつ喋るおかしなやつだと思われるから外で僕と話すのは嫌だったんじゃ」
「今は例外だよ。ここ三日間、毎日放課後にここへ来ているけど同じだ。この鳥は動いている」
「まあ、それは僕も見ていたけど」
「けど?」
「でも特にそれ以上変わったことはないじゃないか。他の彫刻石像は動いていないんだろう?」
「まあ、そうだね。街には意外とたくさん彫刻の石像があるけど、動いているのはこの鳥だけだ」
「なら別にいいじゃないか。東京にミサイルが撃たれるわけじゃあるまいし。バードウオッチングだと思えば、それは有意義で楽しいことかもしれないよ」
「うーん、でもなぁ」
それでも不思議である。石像というのは石であり、生物ではない。一つの石から人間が彫刻して作り上げたものであり、からくりでもロボットでもないのだ。それこそ魔法でもない限り動くだなんて。
その時だった。
鳥は何かを察知したのか、急に後ろを向いて動きを止めた。僕が何事かと注目すれば、その翼を一つ、二つと羽ばたかせ飛んでいった。
「うわっ」
その風圧に顔を覆いながらも、その姿を見失わないようにしっかりと捉えながら僕は走り出した。
「行こう」
それは東西に長い公園の東の果て。さらにその先の川を超えた河川敷。石の鳥は石の巨人と対峙していた。石の巨人は頭の石の上に一つ平らな石を帽子のように乗せているのが特徴的で、腕も、足も、腰もすべてがゴツゴツとした岩であった。顔には目のような窪みがあり、その奥が光っているように見える。遠くからだとその程度までしか見えなかったが、近づくとその巨大さに圧倒される。十メートルはあるだろうか。冬に行われる祭りにつくられる雪の大雪像と同じぐらいはあるだろう。そして巨人は鳥を倒そうと拳を何度も振り下ろしていたのだった。
「一体何で……うわっ、なんだこれ」
二体の近くに近づいたときだった。周囲の空間が歪んでいる……?
それは巨大なシャボン玉に包まれたようであり、感触はないがそこが異空間のように感じられる空間であった。しかもどうやらそれはあの巨人を中心にある程度の距離で広がっているらしく、鳥もその中にいる。
異空間の中は身震いするような感覚が襲ってくる場所で、しかし見た目はいつもどおりの河川敷そのものだった。そして中に入って確信したが、そこはあの明星瀬都奈が異世界人と戦いを繰り広げた第三世界に酷似している。一体何がそのように確信させるのかはわからなかったが、しかしシャボン玉のように揺らぐ空間の境目に触れ、中に入って感じられたのだから仕方がない。そうとしか言いようがなかった。そしてそれに気づいたのは僕だけじゃなかった。
「ここ。いつもの世界に似ているね」
「エデンもそう思う?」
「ああ。君だけの妄想の世界に近いと思う。あの未来人と一緒の世界だ」
第三世界に住むエデンが言うのならきっとこの確信は間違いないのだろう。それならば。
「あの鳥を助けようと思う」
「どうやって?」
「こうやって……さ!!」
僕は地面を指差しそしてそのまま振り上げるように天高く指差した。その先ははるか青い空で、ゆらゆらと青いまま異空間であることを示すために揺らいでいる。
僕が腕を振り上げると同時に起きたことは二つ。一つは鳥がその存在を確認して後方へ下がったこと。これは巨人の攻撃から身を躱すのに最適な行動だった。もう一つは僕が『REIWA』と名付けた機体が地面から鳥と巨人の間に現れ出たことだった。
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