第12話 第三世界第二次戦闘合戦
それから毎日のように僕はバードウオッチングをしていた。一日も欠かさず、毎日出かけた。雨の日も、風の日も、太陽の日も。ただ動くだけの鳥を観察し続けた。休日の日はとても時間があるので、終には鳥の台座へ帰るのを見送ることまで成功した。彼ーーあの鳥のことーーは夜になると台座へ寝むるように元の石像に戻ることが確認できた。昼間は午前十時から動き出しては公園まで飛んでいき、いつもの所定位置で枝を咥え始める。そして日が沈むと同時に飛び立ち、ニキロ離れた自分の台座ーー自転車で漕いで行って自分で確認した。距離も正確に記録してあるので、見たい人には見せてやることもできるーーに帰るのだ。
彼は食事は取らない。日中は僕を監視するようにそばを離れようとせず、木にとまったままである。僕がトイレや昼食を買いに離れると目の届く範囲まで少し移動する。僕が所定位置に戻れば彼もいつもの木に再び留まり、互いに観察し合う時間に戻る。時々彼は枝を落とす仕草をするが、それ以外は首を左右に傾げるのみ。羽を毛づくろいするような動作も稀に行うが、銅像なので翼はあっても羽はない。鳥だから鳥らしい行動をしているのかもしれないが、しかし彼は何度よく見てもその巨大な嘴からは普通の鳥には見えなかった。
そんな日々を繰り返していたある日だった。さすがの僕も変わることのない状況に退屈になってきており
、天気の良いその日は心地の良い日差しを元にうとうととしていた。エデンはそんな僕をよそに読書に励んでいた。ちなみに彼の読んでいる本のタイトルを僕は知らない。表紙も裏表紙もない本なのだ。
「ね、ねえ! …………おいっ、健っ!」
「……あっ、あう、うん?」
エデンが何かに急かされるように僕を起こしたときだった。
一つ岩を帽子のように乗せた巨大な石像が再び現れたのだ。それはこの間僕が戦った石像と瓜二つであり、崩れた岩がそのまま再生したかのようであった。石像は今回も動いており、その岩を継ぎ
鳥の石像は今回も対峙するかのようにホバリングしており、その声無き鳴き声を必死にあげていた。そして僕の方をちらりちらりと見やって、何かを促すかのような仕草をするのだった。
「また戦えというのか……?」
石像が一歩進むと鳥は一定の距離を保つように下がった。そして僕の方をちらりと見るのだ。急げ、急げと言わんばかりに。
「しょうがないなぁ……もうっ!」
このときの僕の気持ちをなんと表してよいだろう。素直に言えば嬉しかったし、ワクワクしていた。俯瞰的に見れば幼い心持ちだと言えたし、懐疑的に見ればそれは不謹慎だとも言えた。だってそうじゃないか。敵が現れて何か良くないことが起きているかもしれないのに、自分がヒーローだから、ロボットを扱うことができるからと得意げになっていることが幼くて不謹慎だ。しかし、一方で先程までとは打って変わってとても楽しい気持ちになっているのも、これまた間違いない事実であった。
「起動!」
今回も近づけば謎の膜に覆われた世界になっている空間を当たり前のようにダッシュで入り込み、僕はREIWAを地面より出現させ、搭乗した。
「えっ」
搭乗して初めて気がついたが。石像は二体いた。
いや先程までは一体しかいなかったはずなのにいつの間に? と考えているときには三体目が地面からREIWAのようにすーっと出現してきたではないか。これには戦いた。敵が複数だなんて初めてのことだ。大丈夫だろうか。敵の正体も動く理由も何一つわかっていないのに。ここは自分の想像上の世界でもあるのだからと好き勝手に巨大ロボットを想像のままに動かしているだけなのに。理屈も理由も抜きに現実だけが進んでいる。
そんなことを考えていると敵の一体が両腕を機体に押し当てて攻撃してきた。振動に耐えながらも僕は応戦。先制攻撃を浴びたおかげで多少やられそうにはなったものの、すぐに押し返して逆に転倒させてやった。三体目がその様子を見ているのに対し、二体目が片腕を振り上げたので僕は二本の刀を抜刀し、その一本で二体目を両断。更に追撃をもう一本で浴びせることで、敵の岩を一部崩落させるまでにダメージを与えることができた。二体目もよろめいて後ろへ下がっている。
いけるかもしれない。
そう思った僕は二刀流を駆使して一閃。自分でも驚くほどの速さで切り裂いた一撃は、敵を一瞬にして崩落させた。相手の正面から後ろ側へと刃を放つように切り裂いたREIWAは、振り返ってその様子を確認した。残り二体。一体がようやく起き上がってきたので、起き上がりに背後から再び一閃浴びせ、連続攻撃で終には崩壊。残りは呆然とその様子を見ていただけの三体目。仕方無しに襲いかかってきたそいつめがけてボタンを一つ押し込む。それはミサイルの発射ボタンで、背中から複数発射されて全弾命中した。これにて三体目を撃破した僕は満足げに機体から降り、REIWAに手を掛けて見上げた。
僕はそれこそ完全にヒーローになった気分で石像の岩と、姿消えゆく機体をいつまでも見ていたのだった。
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