第8話 猛毒と浄化 2
ふと横を見ると背が高く色白でまるでKPOPアイドルのような青年が席で羽毛のコートを脱いでいる。
「
三日月がその無表情のままぺこりと頭を下げた。
「
青年は指を一本立ててそう言うと
「あ、メニューもね」
と今度はメニューを開ける真似をしながら笑顔で三日月にいう。
「
三日月はそう言うとキムチの突き出しを銀盆に乗せ、メニューをその下に置いてテーブルに運んでゆく。その時、足元が滑って銀盆が傾き、三皿全てが床に落ちて割れた。上に乗っていた白菜キムチとナムルやニンニクが床に散乱している。
三日月はそこに固まって呆然と立っていた。すると青年は席を立って丁度後ろにあった塵取りと小箒で綺麗に始末し始めた。
「ケンチャナヨ、心配しないで、オレが片付けるからね」
青年は固まって突っ立っている三日月に優しく言って、掃除し始めた。
「三日月、すみません、って言うんだよ」
丁度その時、用に出ていたソヒョンが帰って来たのだ。
「すみません」
三日月は少し震えながら青年に謝った。
「すみませんねえ、ユジュンさん、この子は少しこういうことが苦手なもので」「いいんですよ、三日月さんっていうんだね、オレ、チェ・ユジュン。韓国から仕事に来てるんだ。コンピュータの勉強してるんだよ」
「ユジュンさんはね、時々ウチにご飯食べにいらっしゃるソウル出身の方なんだよ。ソウル大学のコンピュータ工学部を首席で卒業されて大学院で
いやね。この三日月はここでバイトしながら社会人として素養をつけてやっててね、実は親から頼まれたんですよ。この子は高校ではダントツの成績であなたみたいに大学で情報の勉強したいって、留学も視野に入れてるんですよ、
なんたって、英語はもちろん、中国語やここで学んだ韓国語もペラペラなんだからね」
「フランス語、わかる?」ユジュンは尋ねた。
「はい、少しなら」
「三日月ってフランス語じゃ、クロワッサン。あのパンの形だからね。で、冠詞をつけるとル・クロワッサン・ドゥ・ラ・リュンヌ、綺麗だね、君の名前」
「あ、ユジュンさん、見てやってくださいよ、今、いま、少し三日月が微笑んだよ、三日月、嬉しかったんだね、よかった、よかったよ」
三日月に浮かんだ一瞬の微笑みは消えたがそれはソヒョンの心に強く残った。
アリシアがアツアツのブテチゲをふうふう言いながら食べているとソヒョンは慌てて冷水のグラスを持ってきた。
「ほらほら、火傷しないようにね、慌てるんじゃないよ」
「アタシ・・・」
鼻水を啜りながらアリシアはソヒョンに言った。
「なんだろ、この胸に閊えるなんか不思議な感じ」
「あはは、ブテチゲ、初めてかい?」
「そうじゃない、オンマ。あのユジュンさんを見てるとキューってまるで胃から喉に上がってくるものがあって」
「アリシア」
ソヒョンは満面の笑顔で言った。
「お前、恋したことは?」
「無いよ、セックスは飽きるほどしたけどさ」
「アリシア、お前、そりゃ初恋だよ、大事にしな、その気持ち。そしてもうカラダを売るのはやめるんだ」
つづく
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