第3話 ムーダンのお告げ 前編
「
臙脂色のエプロンをしたバイトらしきツインテイルの少女が一点を見つめてソヒョンを迎えた。
「
ソヒョンは慈愛に溢れた笑顔で少女に返す。
コリアンタウンの路地にあるオンマポチャ(母さんの飲み屋)と看板を出したその店は2階へ続く急な階段へと続いていた。2階が占いの霊場だ。
ソヒョンは閉店したキッチンに立ち、鍋に火を付けている。暫くすると唐辛子のスープが煮える芳香が鼻を擽る。
「
一本調子の台詞を言って大きなトレイに鍋を載せると、先程の少女はアリシアとエレナの前に木製の容器に載せられた鉄鍋を置いた。
「熱いから気をつけてね」
ソヒョンが言い終わるや否や、二人は鍋の中に首を突っ込んでふうふう言いながらスプーンでスンドゥプを啜る。
エレナの腹部がキューンと鳴ると、アリシアは思わず笑った。
「アハハ、エレーナ。オメエ、正直すぎるぜ」
「だってさ、何にも朝から食ってねえし」
「ほらほら、火傷するよ」
ソヒョンは微笑みながら、冷水を入れたグラスとご飯を二人の前に置いた。
「うめえ、この店サイコーっ」
アリシアは上を向いて叫んだ。
「マシッソヨ、だったっけ」
新宿に呑まれながらついたアリシアの語学力はなかなかのものだ。
「よく知ってるね、それ食べ終わったら、2階行こか。あんたにだけに言う話だよ、そっちの彼女は下で待っててね、三日月、アイスでも出してやって」
三日月と呼ばれた無表情のバイト少女は、小さく頷くと冷蔵庫を開ける。
アリシアが急な階段を恐る恐る上がるとそこは意外に大きな長方形の部屋だった。前面突き当たりに白木の祭壇、何本もの電灯蝋燭と線香の匂い。その祭壇を背景にソヒョンが座布団に座り、お互いに見合う。
「これから言う話はちょっと怖いから泣くかも知れないよ。いいかい」
ソヒョンは顔を近づけて言う。
「実は昨夜、怖い夢を見たんだよ。ある男の殺人の場面さ。そいつは長いサバイバルナイフで家族を次々に襲って殺しやがった、そして笑みを浮かべて裏口から出て行った。
その時、小さな女の子が外で立って呆然とそれを見てたんだ。男と一瞬目が合った後、男は逃走した。小さな目をして赤ら顔の奇妙な顔した奴だった。
そいつは急ぎ足で去る時、私に向かってこう呟いたんだ。
オレはもう一度この世に帰ってくるってね。
そして今日、あんたとぶつかった時、私はその女の子があんたの中に立っているのを見たんだ」
アリシアは金縛りに合ったように、ソヒョンの顔を見つめていた。
「そうです、その女の子が私です」
やっとの思いでアリシアはソヒョンに告げた。
つづく
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