第4話 ムーダンのお告げ 後編

 二重の防音壁がされた長方形の霊場の中で、太鼓プク小鼓チャングが激しくリズムを取りながら響き、ケンガリ(鉦)が金属音を立てる。

 

ソヒョンは足を床に打ち付けて、右手に扇を翳し、左手に榊を掲げ持って朝方まで踊り続けている。


 五行色と呼ばれる青、赤、黄、白、黒で彩られた長い韓服がそれに合わせて揺れる。それぞれがこの宇宙に存する木、火、土、金、水、を象徴する。


 打ち鳴らされる小鼓は雨を、太鼓は雲を、ケンガリは雷を表し、大自然の脅威の中に霊魂を降ろすのだ。

 

 次第にソヒョンの身体は震え、目は虚になり、時に体を捻り、時に回転しながらも足を打ち付け、踊り続ける。

 

楽士たちもトランス状態になり、益々リズムと音が速く激しく鳴り響く。

 

その舞踏の間、アリシアは見た。裁判で見た赤ら顔で髪の薄い目の小さな男が最後の教誨室で菓子と共にナイフが描かれた紙の小片を飲み込むのを。

 

そして教誨師に促されて執行室に連行された男の首にロープが掛けられ、一瞬男がニヤリと笑う姿を。

 

それから暫くして、つぎに見たのは男が崖のような急な坂で木の根に捕まって上へ這いあがろうとしているシーンだった。


 そこへ青鬼と赤鬼がヘリのような乗り物から投網のようなものを投げた。すると男は投網をサバイバルナイフで切り、岩に捕まりながら必死に上へ這い登る。


 次の追っ手が来て同じように投網を投げる。また男は網をナイフで切る。 そして岩を伝って攀じ登った最中に、小さな洞窟を見つけ、男はその中へ隠れる。そしてシーンはそこで終わっていた。


「何か、見たかい?」

  

 全てが終わり、楽士たちが帰って行った。窓が明けられ、朝日が差し込む中、アリシアは見たものを全部告白した。


「やっぱりね」


とソヒョンは言った。


「私が見たものはあんたの家族が惨殺される現場だった。人の良さそうなお父さんに優しいお母さん、そして腕白そうだけど瞳が綺麗な男の子、弟だよね。今でも震えがくるよ。


 男は犯行の間ずっと笑っていた。愉快で仕方ないというふうにね。


 でもその次に見たのは更に恐怖だったよ。それは閻魔様の法廷だった。閻魔様って綺麗な女性なんだよ。不思議だろ。で、キャリアウーマンみたいに濃紺のスーツ着てるんだ。そして大きなガラス窓のあるオフィスにいるんだよ。彼女が私に向かってこう言うんだ。


そいつは地獄行きを逃れようとしてる。そしてこの世に転生し、また快楽殺人を繰り返そうとしてる、ってね」


「アタシも聞いたよ、あの男が最期の遺言を教誨室で言うシーン。私はまたこの世に戻ってきて楽しいことをしたいです、って教誨師に言うんだよ」


つづく


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