第5話 凶悪犯脱走劇
あの世、閻魔法王庁
朝8時20分、始業直前。
「マヤ、昨日のクラブ、クールだったわね」
閻魔王は曲線で彩られた大きなテーブル内側への湾曲面にもたれている。
助手のマヤは書類を手にダークスーツを着て前に立っている。
「ビッグアップルクラブでしょ。この辺じゃ最近できたとこ、サイコーね。ニューヨークがコンセプトになってて音楽もジャンル多いわ。ハウスやヒップホップだけじゃなくて、ラテンのノリまであって思わずハイになっちゃった」
「あんた、あんなバーレスクみたいなお尻クネクネで踊っちゃったからオトコがみんな寄ってきてたじゃない、流石マヤ姫ね」
「アハハ、思わずあのラテン系の濃い顔のオトコナンパしちゃった、連絡先交換したしね」
「ダメよ、直ぐにベッドに連れてっちゃあ、アタシの立場も考えてね」
「わかってますよ、閻魔大王様。こわいこわい。地獄に堕とさないでくださいませ。だってさ、あのジャスパーってオトコ、アタシをブラックピンクのジェニーに似てるって褒めるんだもの。アタシの一番弱いとこ突きやがってさ」
「でもさ、まあアンタそんな感じはあるよ。さ、ちょっともう勤務時間よ。
昨日の案件ちょっとチェックしとこうか、ムダ話はもう終わり」
「はあい、じゃあPCの横行くよ」
大きなガラス窓から燦々と朝日が差し込んでくる。UVカットにはなっているのだがそれでも眩しい。巨大な執務室には閻魔王と助手のマヤしかいない。もう直ぐ副官、
「これ、ちょっと見てよ」
閻魔王は顔を顰めた。
「東京で以前起こった連続薩人事件の犯人ね」
マヤはPCを覗き込んだ。
「そう、こいつ8人も殺してる。最初は通り魔で駅に潜んでサラリーマンとOL、次にショッピングモールの駐車場に潜んで主婦と娘二人、そして最後は平凡なサラリーマン家庭の夫婦と弟。
ちょうど小学生の姉は外出してて難を逃れた。周囲じゃその前から猫の首が次々と路上に放置され、警察が警戒網を敷いていた。
貧困な家庭に生まれ、幼少期から父親の虐待と母親のネグレクト。体が弱く、学校ではヤンキーから壮絶な肉体的精神的イジメを受けたんだ。
施設に預けられるも、成人になる前に逃走。そして日雇いの肉体労働を転々としながら命を繋いだ。
無口で誰とも人間関係を築けず、第二次性徴期を迎える頃、この男は異性や同性に性欲を感じるかわりに、動物の虐待や残酷シーンに欲情するようになった。
そして、動物虐待がトリガーになって殺人を重ね、逃走するうちにある肉体労働の宿舎で国籍不明の不法滞在労働者に巡り会ったんだ。
男は言った。お前はもう直ぐ司直に逮捕される、そして死刑判決を受けるだろうってね。でも安心しろ、お前にいい物をやろうって。
男は小さな紙切れを沼名に渡した。そこには黒インクで小さなナイフの絵が描かれていたんだ。
このナイフの絵を寸分違わず模写しろ。そうするとそれはお前のナイフになるってね。
そして絞首刑が執行される直前にそれを飲み込めってね。
すると死後、閻魔王法廷で地獄送致になる時に、鬼が被せる網をそれで破れるって。そして地獄の崖をよじ登って再びこの世に転生し殺人の快楽に耽るんだと。
それで沼名はその通りにして、青赤鬼の「天網恢々」を破って崖のどこかに潜んでいるんだよ。
今日から鬼たちに全力で沼名の捜索と確保に当たらせるつもりだ」
「じゃあ、ブリーフィングが終わったら鬼宿舎へ行きましょう、閻魔王様」
「うん、そのつもりだ」閻魔王は頷いた。
「今日はマヤを鬼たちにお披露目せねばね、アイツらヨダレ垂らすかもよ」
「やめてよ、閻魔王がセクハラしてどうすんの」
「アハハ、ごめんごめん、あ、おはよう司命殿」
「ブリーフィングに来ました。どうも厄介なことになりそうです」
王立林がさぞ困ったという風にしかめ面をした。
つづく
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