第9話 ジュリエットのように、毒を
「本当にそれでいいんだね」
ソヒョンはもう一度アリシアの目を見据えて確認した。
「後悔はありません」
アリシアもう一度ソヒョンを見つめて返答する。
「まずその身を清めることだ。閻魔大王のところへ行って潔白が証明されねばならない、わかったね」
「はい」
「じゃあ、先日言ったように、無益な立ちんぼはもうやめてウチにいるんだ。ここで寝泊まりさせてやるよ、但しアンタの関係者はどう思うかっていうことだ。
ま、ここで住み込みで働くことにするけどさ、それでいいね。三日月とも仲良くなってよ。
だけどねえ、施設から飛び出して長期間になってると、保護司や児相の職員がウチにアンタを泊めて置くのを許すかどうかって」
「大丈夫よ、その点はアタシももう少しここにいることを伝えたし、保護司もこの店とソヒョンさんの人柄を知ってるみたいで」
「そいつはよかったよ」
「なんでも以前ここの店でよく食事したみたい。で、ソヒョンさん、いつも親切でいい人だって」
「そいつは安心だ、アンタは凄い覚悟をした。反省など微塵もない殺人鬼がこの世に舞い戻って来るのを自分が阻止しようなんて。ホントに偉い子だよ、しかも自分の命を賭けてさ」
「でもね上手く行かなかったら、ソヒョンさんが殺人罪で逮捕されることになる」
「いいのさ、アタシはそんなアンタの正義感に惚れたんだ。刑務所に入るくらい、アンタの優しい両親や弟が無惨に殺された事を思うとねえ」
ソヒョンはアリシアの手を握りしめた。涙が溢れて落ちる。
「きっとアタシは戻って来る。殺人鬼の野郎を無限地獄に叩き落として、アタシだけはもう一度ココへ帰って来るよ、信じて」
「わかった。今からイ・ウジン先生が薬局の製薬室であのトリカブトを煮出して下さるよう、持っていって来るよ。最初は「修治」っていう方法で、あの塊を特殊な泥炭や油で炒めるんだよ。
それで毒素が少し薄まるんだ。そして修治が済んだらそれを茹で上げ、そして水と絶妙な配合で薄めて、冷ましてからアンタに飲ませる。シェークスピアの名作戯曲、「ロミオとジュリエット」を知っているだろう。
あの中でジュリエットは婚約を破棄してロミオと結ばれるために、ローレンス修道士から42時間仮死状態になる量の毒薬を服用するんだよ。あの劇では最後が悲劇に終わるけれど、現代のジュリエットは蘇り、そして悪者を追放してハッピーエンドを迎えるんだ。
アリシアに与えられる時間はジュリエットより少し長い二日間、48時間だ。その間に閻魔王に出会い、庇護を受け、そして家族の仇を取るんだよ、いいね」
アリシアは力強く頷いた。
つづく
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