第6話
祖父と従弟が到着してから5日後、
我が邸に主役な私と他2人。
そしてそれら家族が大集結だ。
・・・この数日はとても穏やかに楽しく過ごせた、
別に授業がないからとかではない。
祖父がこのタウンハウスに来ることは少なく、
使用人たちは張り切って仕事をしていたし、
従弟のカルロは輝く笑顔で私を「バーバラ!」と呼び傍を離れることはなかった。
こんなにも恰好良くなったのに、まだ幼さが見えるその笑顔に撃ち抜かれる。
なんて『良い』んだ、前世であればウチワとライトを持って悲鳴を上げているところだ。
私たちは事前に話し合い、
『当然ながらユースリム令息との婚約はなかったことにする』ことになり
それに安心していたら
『新しい婚約者はカルロが立候補しているがどうだろうか』と言われ
心の中のウチワとライトが飛んでいくほど驚いた、
カルロは祖父に『自分で言うつもりだったのに』と恨めしい視線を送りながら
私のそばで膝を突き
「バーバラを支える、婿になりたい。
仕事は当然これから必死に覚える、
男として、見てもらえるようにもっと成長して見せる、俺・・・私を見て」
心の中の悲鳴を出さないよう、必死に口を押さえた。
こんな、こんなこと言われて否定できるわけない!当然OKした。
もう言葉が出てこなくて「ぅん゛」とマナー講師に怒られそうな返事しかできなかったけど。
カルロは「幸せになろうね」っていうもんだからずっと心臓がうるさくて困る。
まだ13歳って噓でしょ?
カエルのイボがきもいって泣いていたあの情けない貴方はどこに行ってしまったの。
私はその後、来るべき日が来るまでの間
カルロからの愛の言葉を聞いては顔を真っ赤にし
周りからほほえましい視線をもらう羽目になった。
そして迎えたXデー。
私たち以外、全員顔色が悪い。
ティティーナは・・・朝から全員を長時間応接室で待たせたのだが
そういうのに慣れていないのか随分疲れた顔をしていた。
でもカルロを紹介したとき『え!私に従弟がいたの?』とテンション上げながら言ってたのには
全員が引いたしエドルドの母親が『痴女な上に白痴』と、
どえらい暴言をつぶやいていた。
そして全員が座り、今回の原因になったティティーナの言い分をまず聞いてみることにした。
要約すると
『姉がいるという話をマナーの先生から聞いたことがあり、会ってみたかった。
仲良くしたかった、でも【いろんな事情があって】話すことは叶わないのだと父が言った。
学園に入りどうにか姉と話し合いたくて【エド】を頼ってたら好きになってしまった』と。
ふふふ、エド、ね
『愛称で呼び合うのは結婚してからね』なんて言って
それを聞いた家族から笑われていたあれはなんだったのかしらね。
エドルドの両親は、エドルドに。
そしてそれ以外はティティーナの父へと目線が向いた。
「いろんな事情、ですか。詳しい内容は聞いていないのね。
なぜ会話することもままならないのか、なぜ一緒に暮らしていないのか。
なぜ名前が違うのか、きちんと考えたこと、ないのかしら?」
私の言葉にティティーナがきょとんとしている。横にいるカルロが「足りないのか?」と暴言をつぶやいた。
祖父が父に対し
「いろんな事情、とな。
自分の娘に真実を伝える気概もないとは、
それでよく同じ学園に通わせようと思ったな。
御覧の通りの頭であるから今お前はこんな目に遭っている、お前の、愛娘のせいで」
父は誰とも目を合わさず、うなだれている。
そうね、きっと私がイレギュラーな行動をしたばかりに
ティティーナの残念さに拍車がかかったのかもしれないわね、
まあ生来の気質な気もするけど。
「ところで、エドルド・・・ユースリム令息。
私は貴方に説明していたわよね、彼女と私と、そこの父の関係性を。
彼女と話した時、当然そのあたりも説明したのよね?」
エドルドは慌てたようにウダウダ言うが説明になっていない、
要は言っていないのだろう、それがどれだけ残酷なことか。
物語の強制力が無理して話を軌道修正しようとしたためなのか?
「彼女は、悪くないから」
「は?」
「彼女が、伯爵家に迎え入れられる前の話だ。
愛している家族の悲しい話なんて今更知ったら可哀そうじゃないか」
「ではあなたは彼女のために彼女にとって都合の悪い真実を全部隠した上で
私との婚約解消を願い出たのですか。
私がどんな思いでそれを聞いたと思っているのですか」
そう言ったらエドルドは顔を白くして申し訳ないとうなだれた。
ティティーナは訳が分からず目をきょろきょろさせて涙目だ。
私は追い打ちをかけるようにすべてを明らかにした。
「私の母は辺境伯の令嬢、そこの父は婿養子だった、ここまでは分かるわね?
そして生まれたのは私なの。
政略的な結婚だけど母は父を愛したわ、素敵なことね?
母は父のことならなんでも肯定したし、自由も許したの。
たとえ月に数回しか帰らなくても、
愛人との間に私と同じ年の娘を設けても、
貴族としての仕事もせず、
辺境伯家の評判を下げるようなことをしても、
その仕事を一人で背負って体を壊してベッドから起き上がれず。
そんな自分に顔一つ見せに来なくても・・・
まだ小さかった私は両親に仲良くなってほしかった。
父にもっと家に帰ってきてほしかった。
だから父のことを知りたくて書斎を見たわ。
愛人、あら失礼、貴方のお母さまへ送るための手紙を発見したわ。
『あいつはまもなく死ぬからその時は真に一緒になろう』と」
ティティーナは、髪が揺れるほど勢いよく首を動かし両親を見た。
父は変わらず顔を上げない、
母は『あの、ちがうの、ねえ』となにか言い訳したがっているが
祖父の眼光におびえ言葉にならない。
祖父が横にいるためか、祖父の怒りがオーラのように伝わってくる、
というか実際怒りすぎて体の体温が上がっているんだろう、なんなら若干熱い。
そして反対に座っているカルロが私の手を握っている。
大丈夫よ、カルロ。
いらない過去はね、捨てるもんよ。
「・・・私は諦めたのよ、
大きくて綺麗で、でも冷たい家に1人きり、
周りの子供との社交は許されていなかった。
多分、自分のことを言いふらされるのが嫌だったのね。
母が儚くなって、きっと父に追い出されるんだとおもった私は祖父に泣きついてしまったの。
小さいとは言え貴族の末席にいるのに、恥ずかしいことね?
その後は祖父に甘え、辺境領へ。
≪貴女の父≫は実家に戻り、実家の爵位を継いで
【邪魔者である私たちがいなくなったから】貴女たち二人を邸に呼び寄せたのよ」
ティティーナは、茫然自失だ。
『そんなこと』『なんで』『知らなかった』とブツブツつぶやいている。
たしかに知らなかったことだろう。
父も愛人だった母も彼女に対し、私の存在は極力隠した。
学園に通えば誰かしらから情報が入っただろうに
それすら愛するエドルドから隠された。
不幸ではあるかもしれないが・・・
ちょっと考えればわかる話なんだよねえ、
それこそ10歳にも満たない子供じゃないんだから。
同情しそうになったがやっぱり自業自得だなと考えを改めた。
「その後は辺境伯を継ぐため、そして父が落とした名誉を回復させるため、
こうして自分を磨いているの、そばにいたエドはそのことを理解してくれていると信じていたわ。
たしかに貴方たちのように燃えるような恋ではなかったわね。
でも、自分の両親とは違う形の、幸せな家族を望んでいたの。
ねえ、そんなに駄目だったかしら?
貴族としてそんな気持ちを抱くのは失格だったかしら?
学園に入ってからどんどんエドルドは私から離れていったわ。
週末の外食も、放課後の勉強会も、月1の社交パーティも、たまにある贈り物もなくなって。
どれだけ寂しかったか・・・でもね、『寂しい』って思うだけだって気が付いたの。
もしエドルドに恋をしていたなら母のように心が弱っていたかもしれないし
【物語のように苛烈な言動をしたかもしれない】
もしかしたら【貴方たちを傷つけていたかもしれない】
でもそうじゃなかった、だから、私は貴方たちから離れるわ。
本当ならあの時、貴方たちから呼び出された時に笑顔で応援すると言えれば良かったのよね。
父のせいでこうなっただけで、なにも知らない貴女は被害者かもしれない。
でもね、私たちは貴族なの、
貴族は個よりも家を大事にしなければならないわ。
その中で、家も自分も幸せになる道を、作っていけたらって思ったの。
だからあの時の私は応援なんて出来なかった、笑顔で別れをつげるなんて出来なかった。
でも、今なら言えるわ。
さようなら、おふたりとも。
貴族として、傷つけられた名誉分の金銭、または土地を要求いたします、
次期辺境伯として、汚名を被されたままにはしない」
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