第7話

それからは放心状態のバカップルを除いて

顔が青どころか土色に変色した大人たちに慰謝料を請求。

エドルドの両親には本当に良くしてもらったので

3年ほど、領地特産の畜産関係を引くほど下げていただいたけど。

それ以外は「エドルドをティティーナへ婿入りさせる」だけで終わった。

ええ、二人を結婚させますよ、二人は驚いているけど。

だって私、基本はビビリだもん。下手に二人をくっつけなかったことによって

こっちになにかが起こる方が怖いのよ。

というか、なぜかティティーナはカルロのほうをチラチラ見ているけど。

ちょっと辞めてよ、実は【他人の物を好きになる】悪女タイプでした。

なんてオチ・・・


それとティティーナ側のほうに対する慰謝料だけど

貧乏なのよねえ、相次いで優秀な兄弟がいなくなり、

仕事ができない父は領地を自分の利益優先で動かし、金が多少ある領民は別の土地へ移動してしまい、

かなり治安の悪い場所となったと聞いている。

そんなところゴッソリもらってもなあと考えていたら

『それならユースリム令息に経営を任せようよ。

彼はこちらで経営を学んでいたから、頑張って領地を立て直してもらって、

黒字化してから僕らに譲渡してもらうの、それが慰謝料』

たしかに、結局エドルドの慰謝料はユースリム家が支払い、

出ていくエドルドは痛まない。(良心の呵責は置いておいて)

でも大赤字な領地の惨状を見て、何年もかけて必死に仕事を行うのは

それはそれは、大層な罰じゃないか。

そんな中で愛しいティティーナといちゃいちゃ出来るかどうかはまあ、どうでもいい。

カルロの末恐ろしい思考に私も祖父も凄い凄いとほめちぎり、頭を撫で繰り回したのは2日前の出来事だ。





ほぼ全員が抜け殻のようになりながら我が邸を去っていく。

それを見ながらぼんやりと今後のことを思う。



物語の強制力が恐ろしいのはわかった。

が、抜け道はあった。


無理して小説通りに話を仕立てようとして崩壊した結果が今だ。

でも、まだ終わりじゃない。

小説では最後に『バーバラは修道院に行く』が

それ以外のことは書かれていなかった。




なので私は学園を卒業後、

辺境へ戻り、経営の合間に修道院を訪問している。

それなりに大きな施設なので困ったことはないか、入り用なものはないかを直接聞けるし

子供たちの保護を行う教会との連携も取り

必要であれば修道女に子供たちの勉強を教えてもらっていたりもする。

今までは必要なことは面倒な書類を送り、

許可が出るまで動けなかったのがなんともスムーズになり

私たちの評判も上がった、田舎だから許される方法だ。

まさにwin-win。

これできっと、私は小説から解放されただろう、そう思いたい。


カルロは私と入れ違いで学園に入るんだと思ったけど

社交回りを頑張ったり、祖父の権力をフルに活用し

なんと、私の最終学年でクラスメイトとして編入してきた。

たった一年だけど卒業を簡単にもぎ取っていった様は、

うちの領は安泰だなあと思わずにはいられないが、


それより友人たちに『真実の愛ってやつね!』と

お茶会のたびに冷やかされる方が恥ずかしかった。




ちなみにあの二人のその後であるが、

エドルドの両親は私たちの邸を出たその足で役所へ行き、

エドルドの貴族籍を抜き

教会に待機させていたティティーナのところへ行き、二人を結婚させたらしい。

早い、早すぎる。除籍から結婚まで数時間しかかかっていない、

聞いたときは腹抱えて笑ったし、速攻師匠である侯爵令嬢をお茶会に誘った。


そして二人は1週間ほどで学園を去った。

まあ耐えられないよねそりゃ。

私たちは特に干渉していなかったんだけど。

元々父の貴族としての信用は地に落ちていたし

ティティーナの母は元平民。父からの言いつけでお茶会の参加すらしていなかった。

それはヒロインも同じことで

社交が命の貴族なのになーんもできない。

かといって、平民のときのように働くことも出来ない。

ニート2名の出来上がり。



『バランド家に領地を譲れば他の金銭は要求しない、

ただし、領地はすべて黒字にしてから渡すこと』としたが

父は経営何それ状態で

赤字なんてあっても≪また≫少し税を上げればどうにでもなると思っていたようだ。

勉強なんて多分、学生時代しかしていないんじゃない?

結婚してからは遊び惚けて母に、

母が倒れてからは執事や使用人に任せ。

実家に舞い戻ってからは家のお金をじわじわ食いつぶし

あとは定期的にある土地の収入で貴族としての体裁を保っていた。


そんなところとつゆ知らず、

エドルドが邸に行って経営の書類を見てぶっ倒れたと聞いた。

ちなみにお邸の掃除は使用人が平民しかいないため、行き届いておらず、

美しい景観をした貴族街の中ではかなり浮いた邸となっている。

『恥さらしの幽霊邸』と呼ばれているのはきっと彼らは知らないだろう。



エドルドは現状どれだけヤバいのかをティティーナ達に説明し、

お金の節制を願っている。

頭を下げ自分より格下の男爵や、商家から仕事を貰いなんとか生活できている。

さいあく、うちに領地譲渡したあとは爵位返上も考えているようだ。

まあそっちの方がいいと思う。

そうすればティティーナと母親が平民として即戦力になるからね、

父がかたくなに貴族の矜持を守りたがっているそうだ。

いちおう当代当主ということで3人は意見をしづらい。


領地譲渡までどれだけかかるか、エドルドなら5年でやり遂げると思っているが。

その後も父が存命なうちは頭も胃も痛めそうなところねえ。




そんなのんきなことを考えていた私のもとに・・・

というか私が訪問している修道院に手紙が届いた、ティティーナから。

どうやら私の邸に送っても届かないことを理解したティティーナが

領のさまざまな施設に手紙をぶちこんでいたようだ、テロかよ。

月1で訪問したその日、『普段は捨てるんですが、いらっしゃるので・・・』と

仲良くしている修道女が見せてくれた。

こ、これも物語の強制力ということか!とかなり衝撃を覚えつつ

教会へ行き、子供たちのランチを眺めながら中身を確認。


内容は私への謝罪、何も知らなかったことへの後悔、

いつか仲直りがしたい、何年かかっても会いに行くという旨が綴られていた。

来るのかよ・・・まじで来そうでこわいな、私は背中をぞわっとさせた。



でも、この手紙が来たということは物語は終わったも同然。

これからは私たちの行動で私たちの未来は決まるのだ。


今後もあの邸に使用人を紛れ込ませ、うちに来ようとしたら釘を刺してあげよう。

彼らへの見張りは常につけているが、あちらが何かしてこない限りは

一切手を出すつもりはない。

不幸になんてならなくていい、

どうせ二人は小説通り一緒にいるんだろう、


幸せかどうかはどうでもいい。




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