第4話

私というイレギュラーな行動をとる人間がいても、いなくなっても

ヒロインとその周りはなにも変わらないのか?

定期的な情報をしっかり得るようになり、辺境領へきて10年近く経った。


貴族令嬢として完璧、には程遠いがそれなりに仕上がっている。

エドルドのことは恋というより、仲の良い弟、に近い感情を持っている。

いずれ家族になるのだし、無理に恋に発展しなくても問題はない。

どうか【学園】に行ったとしてもヒロインの元には行かないで欲しいと願う。



そうなったら多分、私は容赦できないから。




この国の貴族の子供は、必ず16-18歳まで王都にある学園に通わなければならない。

学園も指定されているため、覆すことはできず、

私は見覚えのある学園名を見てため息をついた。

調べたら案の定ヒロインも同じ学園に通うのだ。

エドルドには事前に実父との関係性と、同い年の妹が同じ学園に入ってくることを説明しておいた。

一番仲が良い従弟がなぜか一緒に聞いていて

「そんな場所に行かなくていい」と言ってくれたが

もちろんそれは叶わない、隣のエドルドは「僕が守るから」と言ってくれた。



言ってくれたのになあお前…





ついに迎えた入学式、

私はエドルドに

「初日は不安だからそばにいて欲しい」と伝えていた。 

エドルドは快諾し、私よりも早い時間から待ってくれていた。

クラスは一緒、そして【ティティーナは別クラス】となった。

貴族が多くいるこの学園は、

爵位と能力、そして≪寄付金≫によりクラスが分かれる。

小説ではティティーナ、エドルド、そしてバーバラは同じクラスだったが・・・

貧乏伯爵になってしまったティティーナのところは父が寄付金をケチり、

下位貴族やお金のある平民と同じクラスに割り振られてしまっている。

普通の貴族であればお金を借りてでも寄付金を用立ててクラスを上へと

持ち上げるところだし

上流貴族なのに平民と同クラスなんてなった日には

恥ずかしくて通うことは出来ないだろう。

まあ、そんな事情一切知らないティティーナは、きっと来るんでしょうけどね。


そうこうしているうちに下校時間、

エドルドにエスコートされて王都にあるタウンハウスへ戻ろうとしたら

「お姉さま!」と声をかけられる。


・・・どうやって私の顔を知ったのかしら?

そんな遠くから声を張り上げるんじゃない、

手をぶんぶん振るんじゃない、

息を弾ませて走るんじゃない、

小説でもこんなひどかっただろうか。

『元平民という≪だけ≫で義姉に嫌われているが

健気にも分かり合おうとする元気いっぱいの令嬢』という設定だったので概ね間違ってはいない、のか?

小説では学園に入ってから友達を作り、すこしずつ成長していくのだ。

とはいえ、このガサツさは現実に目の当たりにするととんでもないわね、

マナーの先生雇ってないの?

まあいいわ、こちらは辺境伯とはいえ、同じ伯爵家の出。

下校中で多くの子息や令嬢が、ティティーナの行動を興味深そうに見ている。

仕方ない、さっさと挨拶してちゃっちゃと帰ろう。

「失礼ですが、どちらのご息女かしら」

「あの!わたしティティーナです。父はアダムスといいます、同じ父です!」

こんな大勢の前で、ともすれば修羅場一歩手前みたいなこと言いやがって!

まじかよ!

と、思わず素が口から飛び出てきそうになった、

こんな素を出すのは3歳違いの従弟くらいだ。

あの子は元気だろうか、雷嫌いは克服したかしら、今度手紙を書こう。

と現実逃避をしてしまったがそれではいけない、

続く言葉を探していたらティティーナとエドルドが見つめ合っていた、

二人とも大層驚いていて、その瞬間悟った。

(お前ら会ってんのかよ!!)と


会っているとしたら早朝の学園、まだ私が登校していない時だろう。

物語の強制力、仕事しすぎじゃないかしら・・・過労で倒れてしまえばいいのに。


完全に二人の世界になってしまっている二人の間でニコニコ。

試しにさらりと挨拶をしてみたがティティーナは「・・・はい」と

エドルドを見ながら小さい声で相槌を打つ、

何が「はい」なのか、馬鹿にしているんだろうか。

二人をそれぞれ見てから少し声を張って

「挨拶もされたくないようなので、そろそろお暇しようかしら」

と笑顔で言ってやった。

ティティーナはずいぶん慌てて言い訳をしているが知ったことではない、

エドルドは後ろ髪引かれつつ一緒に馬車に乗り込んだ、このままうちの邸でお茶会があるのだが

話しかけても心ここにあらずな我が婚約者様である。

腹が立ったのでエドルドの服に紅茶をぶっかけて『あらごめんなさい!』

と言いつつもハンカチも出さず使用人に伝えそのまま追い返してやった。


その後、ティティーナの家に

【公衆の面前で突然声を掛けられ、こちらから挨拶をしましたが

おざなりな挨拶を返されました、舐めているのか?我、辺境伯の令嬢ぞ?】と

要約すればこんな感じの抗議の手紙を送った。

もちろん祖父にも報告し、祖父の方からも抗議してもらった。

翌日、私の手紙がいち早く届いたのだろう、

ティティーナからの突撃はなくなったが視線をバシバシ飛ばしてくる。

やめろ、人の目を気にしろ。


結局、小説通り二人は一目惚れし合った、はあ~ぁ

・・・でもまだやれることはあるはずだ。


私はエドルドと放課後にお互いの邸で勉強会や、街にデートへ行き

プレゼントを贈り合ったりなどを繰り返し

周りへの『お付き合いは順調ですよ』アピールは欠かさなかった。

たとえエドルドのことを、『出来の悪い弟』レベルまで気持ちが落ちたとしても、

いずれは家族となるし、10年近く仲良くしてもらった、

彼の家にも大層可愛がってもらった。

情があるのだ。

この程度で見限ったりはしない。


そして当然、社交にも力を入れた、

ちょっと口が悪いご令嬢たちと仲良くなった、

まあ女は噂話が好きだからね、

実父のざまあ話なんて舌が擦り切れるほど繰り返し話した。

ニヤニヤしながら聞いてくる彼女たちの顔に品はない。

が、こういう子たちは使いようだ。


入学して3か月経った。

徐々に徐々にエドルドが私から離れていくのが分かる。

彼の実家には

『彼と最近会えなくて・・・

勉強を頑張ってくれているんだって分かってますが辛いですね、

それはそうとお義母さまの誕生日がもうすぐですね、王都で流行の香水を送ります』と周りへのフォローという名の証拠作りも余念がない。


そしてとうとう、エドルドとティティーナが抱き合っているシーンを友人が目撃する

小説通りである、強制力、やるじゃない。


私は今まで友人たちに『二人のことは火遊び』、『結婚した暁には尻に敷くんだ』

と言って笑わせていた。

周りもまた同じことを言ってくれるのを期待しただろう。


ただ今回、私は泣いた、令嬢にあるまじき、ハンカチを濡らすほど泣きまくった。

取り乱す私に固まる周り、徐々に私を慰める側に回る。

噂が大好きな彼女たちはこの瞬間、完全に私の味方となったのだ。

あの二人がバーバラに隠れていちゃついている、キスをしてた、言葉にできないような行為をしていた。

噂にどんどん尾ひれがつく、もちろん広めているのは私だ。

バーバラは気丈に振る舞っていた、二人の噂が出た途端泣き崩れた、

うんうん広めてくれ。

前より顔色が悪い(そんなことはない)、

夜も寝れていない(ハマった本を読み、寝過ごしただけ)

修道院にいく勢いだ(それは小説通りだやめろ)

まあこんな感じだ。

さぞ二人の肩身は狭くなっただろう・・・



と、思ったがそんな中で開かれた学園内でのパーティー。

エドルドがティティーナをエスコートなんてしようものなら恥である、私の。

なので事前に私の家の馬車がエドルドをお迎えに上がっている。

今のエドルドは信用なんてものは皆無なのだ、ということを

これで解ってもらえるだろうか?

迫力ある私の笑顔にビビりつつエスコートしてくれる、

さすがにこれなら会場内でも近くにいるだろうと考えていた。

エドルドとのダンスを終えた後、飲み物を貰って友人たちに挨拶をしていた本当に、

本ーー当に少しの時間でエドルドはティティーナの手をとり、

次の曲のダンスを踊り始めた

それを黙って見守る私、

戻ってきたらパーティー会場を離れ、邸に戻ろう。

本音で話し合おう、説教だ、帰さない。

そう思っていたのだ、この時は。



まさか2曲目も踊るとは思わなかった。



あらーー、そう。そうなのね・・・

私は今まで掠れて消えそうだったエドルドへの家族愛的なものが

跡形もなく消えていくのが分かった。

あとはもう現実逃避だ、

あらあらゆったりした曲なのにそんなはしたなくクルクル回って

周りで踊っている皆さんが引いていらっしゃいますよ、

クルクル回るといえば、小さい頃従弟に

『トンボの目の前で指をクルクル回すと頭が落ちちゃうの、やってみる?』

って言ったら

全力で泣かれて飼ってたトンボ全部逃がしちゃったのよね、

私に首落とされないために。

ふふふ、あの時の従弟は可愛かったなあ、元気かなあ。

あ、曲が終わったわ。

二人はそのまま庭園に出ちゃったみたいね、婚約者でもない男女が夜の庭園にね、

あらあら。

来週のクラスの視線は二人のものね、ふふふ。

その後は味方となった友人たちに慰めてもらった、当然私の涙は演技だ。

学園で仲良くなった令嬢から

「女の涙は武器だから、自分の都合のいい所で必要な分だけ出せるようになれ」と

言われ、その令嬢を師匠と仰ぎ、特訓した成果を発揮している。



師匠、私、できてますか?



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