第3話

母が亡くなり1週間後、

明日葬式が行われるとなった段階でようやく父が帰宅。

その間は筆頭執事や使用人たちが慌ただしく動き、親族関係者に手紙を送っていた。

まだ6歳の私はほぼ役に立たないが、少なくとも役目を果たしてもいない父よりは

マシだろう。

ようやく帰ってきた父は私に「葬式中は父のそばにいなさい」と

さも優しい父であるかのように言ってきたが、

おそらくあれは母方の家族に余計なことを言われないようにするためだろう。

なんなら葬式の前夜は私と一緒にずーーーっとおしゃべりしていたくらいだ、

当日に疲れて寝かせるためだろうか。姑息すぎる。

6歳児をなめてもらっては困る、

どれだけ疲れたとしても寝たら翌朝には体力満タンに回復するのだ。

黒い服を身にまとい、

あまり顔も覚えていなかった辺境伯である祖父、そしてその他親戚とご挨拶。

祖父は目を赤くしていた、母に情があったのだろう。


母は、バーバラを愛さなかった。

祖父は母を愛していたが孫にまでその情が続くものとは限らない。

これは賭けになるだろう。



私は父が他の人たちの対応中、お菓子を食べに行ってくると嘘をつき

母方の親族のところに単身突撃をかました。

「わたしはおとうさまに嫌われています、だからお邸からでないといけません、

おじいさまのところに行ってはだめでしょうか?」と

親族は目をかっぴらいて詳細を聞いてきた。

私は父が家に月数回しか戻らないこと、

母は父を恋しがり死んでいったこと。

父には自分と同じ年の子供がいて、愛人宅に入りびたり、

かつ、仕事もせず遊び呆けていることを暴露してやった。

もちろんスンスンと鼻を鳴らすのも忘れない。

これらの情報は使用人がちょろっと動くだけですぐに集まった。

ということは王都中に『あの辺境伯んところの婿大丈夫?』

って思われているのでは?

恥ずかしすぎる。


「ほんとうは、おとうさまと仲良くしなくちゃいけませんよね。でも、できないの。

だからおじいさまのところに行けないなら・・・


おかあさまと、かみさまのところに行きたい」


祖父は絶叫する勢いで父の名を呼び、

慌てて転がり込んでくる父に詰問。

その間、私は祖父方の親族で3歳下の従弟と別室へ移動。

一緒にお菓子を食べて眠った。

泣いたふりをしていただけの私に対し、

従弟は頭を撫でてくれた。なんていい子だ、泣き真似で申し訳ない。




目が覚めたときは馬車の中で、ニコニコした祖父・そして従弟が一緒だった。

祖父が小さい私にもわかるように父や、今後のことを教えてくれた。


私は今後、辺境領へお引越し。しばらくのんびり暮らせばいいとのこと。

父は【お役御免】、同じ伯爵だが面倒ごとに超厳しい実家に出戻りとなった。

・・・おそらく、愛人や子供がいることもそこまで問題にはならなかったのだと思う。

問題になったのは王都での仕事具合だ。

家にも帰らず婿のくせに、母や執事にすべてまかせ

社交パーティーにも行かず、

爵位がなく仕事もしない下位貴族の次男三男を引き連れ、

平民が使うようなバーで飲み歩いていたのだ。


辺境伯バランド家の、王都での評判を著しく下げた。

婿として失格、次期辺境伯の父としても不向きとして追い出されたのだ。

まあ追い出されただけで済んだのだから良かったのではないだろうか。

肩身は狭いだろうけどね。

祖父は大きな手で私の頭を撫でながら

「ゆっくり過ごせばいい、必要であれば親戚から跡継ぎをつくろう、今は何も考えなくていい」

山のようにでかい体ではあるけど、その雄大な声にもう心配はいらないのだと

ポロリと涙がこぼれた。

そばでは、あまりわかっていないだろう従弟が

「帰ったらいっしょにあそぼうね!」と喜んでいて思わず笑ってしまった。




そして、私は王都に比べたらまあ田舎・・・風光明媚な地で元気に暮らしていた。

従弟たちと遊びながらもマナーや座学などはかなり他の子より遅れていたようで。

みっちりしごかれた。ゆっくり過ごせ、とは・・・

小説からだいぶ外れたなあと考えていたら

なんと小説の婚約者と小説通り婚約することになってしまった。

どうやら婚約者のエドルドは隣の領地にお住いの伯爵令息だったらしい。

嫌な予感がしたので王都にいる父を探ぐらせた。


たしか父の実家は貧乏で、少ない土地をうまいこと経営する敏腕長男が爵位を継いで立て直しをしていたはず。

父は三男、使えない人間が戻ってくることを好まず、早々に追い出され

今は愛人とヒロインが暮らす家に転がり込んでいる・・・というのが数か月前の情報だったはずだ。

その1か月後、その長男が流行り病で亡くなり、

次兄が呼び戻されたが移動時に馬車が横転し当たり所が悪く亡くなり、

なんと父に伯爵の座が回ってきたらしい。

まさに棚ぼた、そして恐ろしき物語の強制力。

父は嬉々として愛人・・・愛する奥さんと娘を迎え入れたが

王都に住む貴族の反応は冷ややかだ。

今までその邸にいた使用人たちはすべて辞めてしまったため、新しく募集をかけたが

上流貴族なのに募集をかけても貴族の使用人はだれも来なかったらしい。

それはそうだろう、

相次いで亡くなった長男次男、

次にその爵位を譲り受けたのは愛人と酒におぼれ、追い出された三男。

もしや夫人も、兄弟も、自分の地位のために亡き者にしたのでは?

そう考えてもおかしくないだろう。

奉公先などいくらでもあるのだ、好き好んでこんな不良物件に来るわけない。

そんなわけで何も知らない平民しか雇えなかったのだ。

仕事はできても美しい所作など持ってはおらず

家にはだれも招待は出来ない。


結果として、

ヒロインは何も知らないわからない、でも【小説通り】【伯爵令嬢として】

周りから愛されすくすく育ったのだ。




それがとても異様だった。

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