第12話 後日談その①
義妹の手紙を読み施設を後にした。
他の施設にも寄ってみたところ、やっぱり手紙が月一で届いていたそうだ。
最初は伯爵夫人宛の手紙を捨てることは出来ず、邸までわざわざ届けてくれるところもあったようだ・・・本当に申し訳ない。
私が今まで知らなかったということは旦那様であるカルロの指示だろう。
珍しく早く戻ってきたカルロと夕食を摂り、二人きりの時間にワイン片手に聞いてみた。
「中身は伏せて『アレの名で届いたものは全て捨てて良し』とだけ伝えていたからね。いつかはバーバラにもバレるかなとは思っていたよ」
「本気で隠す気はなかったのね」
「だって、もう気にしていないでしょ?」
確かにそうだ、義妹のことも元婚約者のことも父のこともどうでもいい。
そう思えたのはこの辺境の地が、皆がいてくれたから。
私たちが学園を揃って卒業後、カルロは防衛基地での戦いに従軍した。
まだ16のカルロを止めたかったが爵位継承の為にも早めに領民からの信用を得たい、と言う言葉にそれ以上紡ぐことは出来なかった。
幸いなことに、祖父はまだまだ現役だ。現役と書いて戦闘狂だ。
カルロが指揮する軍の中、一般兵に紛れてこっそり参戦したそうだが余りのデカさとオーラに一発でバレていたらしい、こちら側の軍トップが若くなったことを嗅ぎ付けた隣国がこそこそを偵察に来ていたが、それらはいち早くカルロの兵が見つけ『散々怖がらせて』から逃がし、それ以降は大人しいとのこと・・・ゴキブリ対策みたいだな。
そしてなんと大人しくなった隣国とこちらの国のトップが会談し和平条約を結ぶまでになった。
きっかけとなった我が領地、そしてカルロは高く評価され本人が希望した通り、史上最年少の辺境伯爵位を継承した。
すごいわあ、うちの旦那様すごいわあ。でもきっかけとは言え国が大人しくなるほどの『怖がらせ』って一体なによ。まあビビリの私が今更そこを考えても仕方ないわね。
カルロを見ながらそんなことを思っていたら「どうしたの?」と聞かれたので、
私の旦那様が格好良すぎて眩しいの、と目を薄めてはぐらかしたら「何を言っているの」とツンとしてたけど耳が赤いのよ、可愛いのよ。
式典が行われる際には王都に行かなければならず、義妹が出しゃばらないようにあの邸には式典の一切の情報が入らないように使用人たちに徹底させた。私の心配は杞憂に終わり式典はつつがなく終わり、辺境領へ戻った。
もう、よほどのことが無い限りは王都に寄り付きたくないものだ。
「・・・ええ、全く気にしていなかったわ、手紙がくるまで」
「消しとく?」
そんなチラシ裏の落書きを消すノリで言われても。
カルロにも一応中身を見てもらうことにした。つまらなそうな顔をしながら文字を追っている。
「いつか会いに行く、ね。
ここまでくると依存だね、よほど貴女と離れたのが堪えているのかな」
「うーん、私だけじゃないと思うのよね」
「ほかに理由があるの?」
「貴方よ」
「僕?」
「ええ」
「バーバラを愛してやまない僕?」
「ええ、私の大好きな旦那様・・・わかってて言ってるでしょ?」
ごめん、と言いながらも嬉しそうに笑っている。
数年経ったカルロはあっという間に私の背を追い抜いた、可愛いという言葉とは無縁な美貌ではあるがこうして笑うとあの頃の面影がふと顔を覗かせる。
こんな素敵な顔を義妹に見られたらなんて思うと、さっきの『消そうか?』にイエスと親指立てて答えてしまいそうになる。
「アレに会ったのは王都のタウンハウスで1度きりだったと思うけど」
「チラチラと貴方に視線を送っていたわ・・・気が付いてなかった?」
「いや、わかっていたけど祖父は終始威圧してたし、バーバラもアレに冷たい目をしてただろう?まだ幼かった僕に縋りたかったのかなって思ってたよ」
それもあるとは思う。
でも同性だからわかるあの『素敵な殿方見つけちゃったんだもん』感・・・。
あの人たちが幸せだろうが不幸だろうが本当にどうでもいい、ただこの手紙に何とも言えない狂気的なものを感じてしまう。
あの邸はこちらが用意した使用人が常に見張っているし、
王都に出るためには城壁を越える際、通行申請の書類を出す必要があるから義妹たちが出たらすぐに報告が来るようお金を握らせている。
やれることはやっていると思うのに手紙一つで不安になるなんて私もまだまだ。
「バーバラ」
カルロが私を呼ぶ、私を見たまま傍の暖炉に手紙をくべた。
「大丈夫、僕がなんとかするから」
「カルロのなんとかって、なんだか怖いわね」
「やり方に指定ある?」
「ないわ、好きにして。報告もいらないから」
なんとかすると言って、本当になんとかしちゃう人。それが私の旦那様だ。
まだ20歳を越えていなのに何この格好良さ、好きすぎて腹が立ってくるわよ逆に。
・・・でもね?
「カルロ」
「何?」
「家族が欲しいの」
「・・・え」
「家族が欲しいな」
「き、聞こえてる」
「私の可愛い旦那様、私を独占してくれるのはとっても嬉しいけれど、そろそろ旦那様そっくりな可愛い子供が欲しいのよ」
「・・・貴女そっくりな子なら嫁に出せないかもしれない」
「男の子かもしれないじゃない」
「あーもう!僕をいまだに子ども扱いして揶揄うのは貴女くらいだから」
中途半端に残ったワインを一気に煽って咽るカルロ、
こんな可愛い顔や動作を引き出せるのは私だけよね、その自信が不安を上書きしてくれる。
過去の家族はもういらないの。
めでたしめでたしのその先に続く幸せに思いを馳せながら
愛しい旦那様の背中をさすってあげた。
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別の投稿サイトで載せた話になります。
あと2話あります。
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