第2話

「榴弾装填。よーく狙って~……──ここだ!」


 ドンッ! という炸裂音と共に九〇式榴弾──凄く簡単に説明すると、着弾したら小爆発する砲弾──が砲身内のライフリングに沿って回転し、目標に向かって飛翔する。

それを確認したのと同時に静めていたエンジンを全力にし、最高速度で草原を疾走する。


 これらの一連の動作は、本来4人くらいの搭乗員が手分けしてするのだろうが、僕は己の意のままに操作する事が出来る。

気分はさながら戦車長だ。


「この距離で正確に攻撃出来るんですか……!? もし城壁に当たったりもしたら……。」


 シェシアの心配もごもっともだが、もし外れても元々帝国軍の砲撃でデコボコになってるし、何より──。


「──あっ」


 ある一基のカタパルトの根元に小規模な閃光が走った。


 よし命中だ! 


 しかし、そう思ったのも束の間、土台に直撃を受けたカタパルトは倒れたり傾くことも無く、光の粒子となって消滅したのだ。


「えっ!? ……ま、まさかアレって……魔力で出来てるのか……?」

「そのようですね。多分、根元の所に魔法陣があります」

「魔法陣……」


 「おお! 魔法陣!!」……と、嬉しい気持ちが半分ありつつ、「え、あれ全部魔法陣で出してるの? 何十基もある兵器全部??」と、恐怖が半分。


 これはいよいよ、とんでもねー国を敵に回しちまった……。

だがしかし、あからさまな攻撃をしてしまった以上、戦うしかない。


「各個撃破していくしかない──かっ!」


 それからは敵の攻撃を回避しつつ、隙を見つけては一時停止して砲撃、また走り出いて回避して──と、一定の距離を保ちつつ各個撃破していく。


 ちなみに行進間射撃したり、機銃掃射で一掃しようとも考えたけど、武装の威力的に人間に当たったら殺してしまう。


 戦端を開いておきながらこんな事を想うのは変だろうが、僕は人を殺したくない。

前世もそうだったように、異世界に転生して新たな肉体……? になったからと言って、自分の意識が消えたわけでは無く、意思や考え方はそのままだ。


 でも、せめて人間として転生したかっ──。


「チハ! 様子が変です!」


 機械的な思考で攻撃し続けて、半ば意識がぼーっと仕掛けてきた時、シェシアの叫ぶような声が聞こえた。


「えっ、な……ごめん! ついぼーっと……」

「違います。帝国軍の様子が変なんです。」

「え、帝国軍の……?」


 あっぶな、ぼーっとしてた。

 少しヒヤッとしつつ、帝国軍の様子をうかがう。


「……特に変わった様子はないようだけど……。別に兵器が増えてるとか増援が来たわけでもなさそうだし……。」


 パッと見、どこも特に変わった様子は見られない。


「……そういえば、確かさっきまであんなに攻撃してたのに今は……まったく…………ない……!」

「そうです。他に変わった様子は無いのに、突然攻撃が止んだ。何か、嫌な予感がします……」


 攻撃が止んだ!?

ということはつまり、帝国軍は──


「……ま、まさか!?」


 ──まずい。すぐに回避をしないと。


 しかし、そう思った時には既に帝国の兵器は|。


 《・》バリスタから発射される必殺の矢が。

カタパルトから放たれる石弾が。

そして、帝国軍兵士の殺気が一斉に、


─────少し前─────


「──弾着ポイントと標的の予想移動ポイント。攻撃ポイントの計測が完了致しました。」

「よし。それじゃあ、予定時刻に合わせて攻撃開始──と、そう伝えてくれ」

「はッ!」


 ビシッと敬礼をし、鼠色の軍服を着こなした熟練の帝国兵が幕舎から去り、自身の仕事を全うするべく駆け出して行った。


 ──こんな若造に命令されてどんな気分だろうか。


 そんな姿を見て、椅子に腰かける一人の将校は苦笑いする。


 名はリード・フォン・アスタリスク。

彼は皇帝から直々に任ぜられた師団長で、帝国の最新鋭部隊を率いる若きエリートだ。


 しかし、いくつもの勲章が刺繍された藍色の軍服は胸ボタンを外してだらしなく身に着け、髪は微塵も整える気が無くボサボサ。

おまけに片手にはティーカップを持っており、しかも中身は紅茶ではなくて緑茶。


 そう、彼はエリートと言ってもきちんとした軍学校を卒業したわけでも無ければ、軍に入りたいと思ったことも無い人間であった。

彼はただ、その実力から選出されたにすぎず、軍隊の礼儀作法や上官としての振る舞い方も知らない。


 そんなだらしない師団長に向けて、苦言を呈する物がいた。


「しっかし中将どの。なんでわざわざ兵器で止めをを刺すんだぁ? あらぁ確かに早えぇが、オラ達の部隊の敵じゃあねぇ」


 彼の名はシルマー・クラフト中佐。

身長2メートルを超える巨漢で、常にフルプレートアーマーを身に着けている。

メイン武器である大斧を青いマントの後ろに背負うシルマーは、帝国でも指折りの戦力である重装歩兵を纏めるリーダーで、リードより立場は下だが実戦経験が豊富で、なおかつ義理堅く、少し頭が悪い所も部下や周囲に好かれている所以である。


「うーん……確かに、今の彼なら生け捕りすら容易だろうね。」

「だろぉ? やっぱ今からでも行ってやるぜ!」


 そう言って幕舎の外に向かおうとするシルマーをリードは制止する。


「まあ待て。今回の戦は勝つこともそうだけど、新兵器の実験も兼ねてるんだ。無為に君達が倒してしまったら、皇帝陛下に何を言われるか。」

「んだよぉ。それじゃあオラ達は無駄足踏んだってか!?」

「いやいや、君たちにしか貴重な最新兵器の護衛を任せられないのさ。」

「へっ! 護衛っつってもオラ達ぁ近接専門だからよぉ、あの妙な奴に相当数やられっちまったじゃぁねぇか!」

「あれは仕方ない。相手も新兵器を用意したんだろう。こちらもそうなんだし立場は一緒さ。」


 ふと時計を見る。

そろそろ攻撃開始時間だ。


「そんじゃ、オラ達ぁ言われた通り警戒に行ってくるぜ」

「ああ。頼む。」


 シルマーを軽く見送り、すぐに視線を戻す。

斉射まで残り、5秒。


 ──4,3,2,1……。


「撃て」


 号令と共に自軍に残る全兵器が一斉に動きだす。

目標は、遥か前方を蛇行する


 ガチャン……ッ!


 空気を裂くような音と共に、巨大な矢と石が直線と弧を描いて飛翔していく。


「さて、どうなるか」

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