第7話
翌日、起きたシェシアも交えて、王都で起こっていた出来事について説明した。
その話によると、シェシアが血だまりの中にいるアイラさまの元に駆けつけた際、アイラさまの召使い兼護衛の騎士が生き残っていたらしく、彼女から大まかに事情を説明されたらしい。
曰く、第二皇子エメロン・ディア・メトシエラがクーデターを起こし、既に国王は殺害されたのだ、と。
そしてアイラの身柄を王国の救世主であるシェシアに託し、北方の王国騎士団の主力と合流し、対抗して欲しいと頼まれたそうだ。
あとはそれらの情報に加えて、王都を攻撃していた帝国軍の兵器部隊は、騎士団が戦っていた帝国軍本隊から離れた別動隊だったとか、その別動隊を自分たちが撃破した事など、自分たちの事情を事細かく説明する。
全ての説明が終わったところで、騎士団長ガルガメッシュが口を開く。
「……ま、内容の信憑性は後でお嬢……いや、アイラ様に聞くしかねぇが、嘘はついてねぇようだな。」
確かに、本人から聞いた方がより細かく正確な情報を得られるだろう。
ただ、いまだにアイラ様の意識は戻っておらず、現在も幕舎の中で救護兵が処置を行っている。
処置と言っても、外傷は無くなっているので外部からできることは少ないのだが……。
そういえばこの
それとも、後見人的な立場で面倒を見ていた可能性があるな。
それともロリコン……。
「……だが──」
そう言ってガルガメッシュが僕の方を見る。
あ、もしかして失礼なこと考えてたのバレた!?
「ッ……!?」と息を詰める。
「──なんなんだおめぇは?」
「…………へ?」
「いやな? シェシア嬢に召喚された、って話は聞いたぜ? 聞いたがよ、明らかに生物じゃなえぇじゃねえか」
それは……たしかに。
召喚と言えばチート能力を持った人間だとか、何かを代償に悪魔を召喚したりだとか、後は古代の生物を召喚したり精霊を召喚したり……少なくとも生命体である。
なのに僕は何だ?
戦車なんだけど……。
いや確かに戦車に宿る精霊だと説明されたけど、僕自身そんな感じは一切しないんだけども。
「正直、僕自身も自分がどういう存在なのか分かんないんですよねぇ……。シェシアが言うには精霊らしいんですが。」
「ふぅむ……精霊、ならありえる……か?」
「さあ……?」
お互い首を捻る。
そんな中、シェシアが口をはさんだ。
「一応、私は精霊召喚の術式で行ったはずなのでチハは精霊のはずです。」
「そうかい……。ってか、精霊召喚をシェシア嬢一人でやったのは本当なんだな?」
「えぇ。祖国を危機から救うべく、召喚魔法を行使しました。」
それを聞いてガルガメッシュは顎に手を当てて思案を始めた様子。
場が沈黙に包まれたので、僕もふと考える。
精霊召喚ってどんな原理なんだろうか? と。
自分をこの世界に顕現させた要因でもあるし、科学文明に生きてきた僕にとって魔法と片付けられるのも納得がいかない。
そもそも、なんで戦車に転生すんの?
いや、精霊だから転生体自体は精霊なんだろうけども、どうして標準装備で戦車が? それもなぜに九七式中戦車??
──何か、神の悪意を感じるな……。
そんな風に思案を広げていると、ようやくガルガメッシュが口を開いた。
「一応聞いておくが、あんたは勇者シンシアじゃねえだろうな?」
「勇者シンシア……?」
ふむ? 知らん名前だな……。
「勇者」らしいから有名なんだろうけど、転生してきたばかりなんだし知る由もない。
「おうよ。メトシェラ王国が契約した冒険者の精鋭だ。俺もちょっと前に見たが、思い返してみるとそっくりじゃねぇかこいつ。」
「ふーむ……?」
確かにシェシアとシンシアと、比べてみればかなり似ている。
それに勇者、か……。
そう、勇者である!
勇者と言えば人類最強の戦士であり、常人には出来ないことを平然とやってのけ、清く正しい志で世界を救う者のことだ。
確かに、戦車砲にも匹敵しうる帝国軍の攻撃を防御魔法で簡単に防いでたし、勇者であっても不思議ではない。
しかし、そうしたら何故勇者シンシアは自分の名前を偽り、シェシアと名乗っているのかだが……。
「あー、それは姉ですね。余分な情報だと思ってたので黙ってましたが、私は勇者シンシア・グラティアンの妹、シェシア・グラティアンです」
「うーむ……勇者の妹か……。それなら一人で召喚できるのも納得がいく……か? んだが、それならそれで名が広まっててもおかしくねーはずなんだが……」
全く聞いた事ねぇ名だな……と、ガルガメッシュはそう呟く。
なるほど、勇者の家系ならシェシアの才能も納得がいく。
常に勇者である姉を見て育ったのだから、否応にも強くなるだろう。
「ちなみに、そのお姉さんは今どこにいるんだ?」
勇者が味方になってくれるのなら心強い。
それに、勇者が味方になるのだから、
だが、そんな思惑もむなしく、シェシアは首を横に振る。
「行方不明なんです。」
曰く、半月前に魔物が大量発生していた古代遺跡の探索に赴いた後、行方が分からなくなったとの事。
「一応な、騎士団も派兵を検討はしてんだが……生憎、帝国と戦争状態になっちまって手を回せねぇんだよ。」
「なるほど……。もうしかしたら勇者の不在を狙って攻めてきたのかもしれないな」
「ま、その可能性が高ぇだろうな。アイツらがいれば帝国軍の別働隊にも対処出来たんだがな……」
どうやら王国と帝国では圧倒的な戦力差があるらしく、兵力差は概算で10倍はあるらしい。
個々人の戦闘力では勝っているらしいのだが、それでも人数に10倍も差があれば圧倒的に不利。
その上、帝国軍は王都を攻撃していた別働隊の兵装が表す通り魔法技術がかなり発展している。
このような状態で、当時帝国軍本体と戦闘していた騎士団から戦力を分けることが出来ず、奇襲で混乱させた所で撤退を行い、ここまで戻ってきたらしい。
「シェシア殿とチハ殿、王都を守護してくれたこと、メトシェラ王国騎士団長として感謝する。それに、王女を守護してくださったこと、感謝してもしきれねぇ」
「ッ!?」
「だ、団長殿!?」
そう言って、ガルガメッシュ団長は頭を垂れる。
その行為に周囲の若い騎士が驚いたが、ガルガメッシュは「まあまあ」となだめる。
「この際貴族だとか立場は関係ねぇだろ? 王都を救い、王女を助けてくれたんだ。礼を言わねぇと失礼ってもんだ。」
そう言って顔を上げると、再びこちらを見据える。
「で、だ。騎士団はあんたらの側につく。」
「ッ! ほんとですか!?」
よし! これで第二王子に対抗出来るようになる。
「おうよ。オレとしてはアイラ様は国王様の次に大切な御方だから──」
不意にガルガメッシュの言葉が途切れる。
半刻遅れて、その場に血しぶきが走った。
「なっ……!?!?」
ガルガメッシュの胸元を、鈍い灰色の直剣が貫いていたのだ。
──は?
なんで?どうして?陣の中で
どう見ても心臓を貫かれており、傷口から迸る《ほとばしる》鮮血は壊れた水道管から溢れ出る水のように大量だ。
そんな中、突然の出来事にフリーズしていた頭に、笑いをこらえるような声が入ってくる。
「──これはこれは……、常日頃から油断をするなと仰っていた御方がこのザマですか……クククッ、愚かな男ですねぇ本当に!!」
反射的に声のした方に視線を向ける。
そこに立っていたのは周囲の騎士たちが身につけている物と同様の騎士鎧で、長髪の金髪がよく目立つ美青年だ。
しかし、口角は吊り上がり、ガルガメッシュを見る目は蔑むように垂れていて、その顔は邪悪に染まっている。
そしてその腕には――拘束されたアイラ様がいた。
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