異世界ならチハ(九七式中戦車)でも無双できる説!

清河ダイト

プロローグ

 カツカツカツ……。


 そう靴音を響かせながら、王城から城郭の砦に繋がる石畳の通路を突き進む一人の少女がいた。

長い金髪に透き通る碧眼で、幼げな印象を持つ彼女は、全身を薄く青白い光を放つ鎧を身に着けている。


「いけません王女さま! この先は危険ですから行ってはなりません!!」

「やつら帝国は高性能な攻城兵器をもっていますし、万が一にでも当たってしまったらひとたまりもありませんから! 早くお戻りください!」

「っ! 皆が戦っている中、一人安全な場所でじっとなんてできないのです……! それに、いざ飛んできても当たらなければ良いのです!」


 彼女はメトシェラ王国の第三王女アイラ・ディア・メトシエラ。

アイラは傍付きの騎士の静止を聴かず、砦へと進む。


「だいたい、一国を統べる者として安全圏から命令を下すだけというのは、戦っている皆に失礼だと思うのです。」


 そう小さく呟くアイラは数分前、王座の間での事を思い出す。


『俺達が行ったところで何も変わんねーよ。それに俺らは国を統治する役目があるわけだし、わざわざ戦場に行く必要ねーんだよ』


 そう言ったのは第一王子クルメン・ディアメトシエラ・メトシエラ。


 兄である第一王子クルメンはユニークスキル【予言の眼プロぺチア・アイ】を持っており、その力に頼るばかりで勉強や武術を会得しようとせず、怠惰な生活を謳歌していた。

性格も自己中心的で卑怯者で、そのうえ権力に固執し、噂では王国内の反乱分子を暗殺しているらしい。

もちろん、実行は彼ではなく別の暗躍組織がしているだろうが。


『ですね、第三王女が行ったところで多少の士気向上にはなっても、それで戦局は覆ませんよ。なんえ相手は帝国。彼らの魔道技術はメトシェラを大きく上回っていますし、それこそ勇者でないと太刀打ちできないでしょうね。』


 そう言ったのは第二王子エメロン・ディア・メトシエラ。


 もう一人の兄である第二王子エメロンは、一番上のクルメンと違って勉学に精通しているが、政治には一切の関心が無く、また諦めも早い。

冷酷冷淡な性格で、自分の利益や安全が第一と考えている。


『アイラ。お前が行く必要はない。いま帝国と講和会議の提案を出しておる。それに、この王城は何人も通さぬ鉄壁の城なのだ。ここに居れ。お前一人が行っても何の意味もない。』


 そう言ったのはメトシェラ王国の王、カフラマン・ディア・メトシェラ。


 祖父である国王カフラマンは既に年老いてかつて王国を救った英雄の面影はなく、今や貴族会や兄たちの言いなりになってしまった。


 私が砦に行くと言った時、王座の間にいた人たちは誰も賛成しなかった。

全員アイラを蔑んだような目線を向け、彼女の心意気を否定する。


「……でも、行動を起こさないと何も変わらないのです。」


 それがたとえ、誰にも受け入れられなくても。

自身の命が危険にさらされようとも、国の存亡に座して待つ事は出来ない。


 数分、石畳の通路を歩いていくとついに光が見えた。


「ッ……!? こ、これは……」


 砦から身を乗り出し城壁の外を覗いた瞬間、絶句した。


 半ば埋められた堀の外側に、攻城兵器群が整然と並べられている。

それもただの攻城兵器ではない。

それらはすべて魔法によって超強化され、攻城兵器の周囲にそれぞれ魔法文字が取り囲んでいる。


 互い違いに設置された大型弩弓バリスタ投石器カタパルトは、敵将の指示と同時に放たれた。


 ドゴゥン!!


 目にもとまらぬ速さで飛来する鋼矢と爆裂岩は、着実に城壁を削っていく。

着弾地点によっては、城壁にいる兵たちにも被害が及ぶ。


 たいして、こちらには大した魔道兵器は無く、魔法使いの数も少なければ弓を射っても届かない。


 増援を呼ぼうにも、この街にあった冒険者ギルドは既にもぬけの殻で、残った冒険者もほとんどおらず、高ランクの冒険者は居ない。


 同盟を結んでいた付近の小国も帝国に服従し、周りには敵しかいない。

まさに絶体絶命な状況である。


「こんなの……」


 そうか、皆が正しかったんだ。


 アイラはその場にへたり込む。


 長兄は知っていた。

スキルの力でこの国の行く末を。


 次男は分かっていた。

豊富な知識を元に現状を把握し、この国が辿る運命を。


 王は……祖父は知っていた。

かつて帝国との戦争で息子……私の父が戦死し、戦に負け、帝国と王国の力の違いを。


 私は知らなかった。

幼いから? いいやそれは言い訳でしかない。

逆に何ができた? 何をすれば国は存続できる?


「……なにも、できない……のです……」


 俯くアイラの眼から、悔しさと無力さで自然と水滴が落ちる。


 あぁ……なんて私は無力なんだろう。

魔法には少しだけ理解がある。

剣術だって、騎士団長に教えてもらった。

政治の事も沢山勉強して、王国をより発展できるように知識も蓄えた。

小さい時から王宮の中で育って、同年代の貴族の子たちともほとんど話したことがない。

人生の全てをかけて王国に尽くそうと思っていたのに、それが今まさに滅亡の危機に瀕している。


「なのに……わたしは……」


 圧倒的に無力だ。

ここからどうすることもできない。

もし外にいる王国騎士団が合流しても、帝国軍には敵わないだろう。


 アイラは拳を握った。


 その時である。


 ドォン……!


 今まで聞いたことのない音が遠くから聞こえた。


「今のは……?」


 顔を上げて外を見る。


 その姿はすぐに捉えられた。

帝国軍の攻城兵器や、戦列を組む兵隊のさらに後方。

兵が滞在する幕舎をなぎ倒しながら、は現れた。


 距離があるためハッキリと見えない。

しかし、アイラはそれが何かを知っていた。


 太古の昔からメトシェラ王国に語り継がれる伝説。

かつて世界が現在より広かった頃、世界は高い文明を有し、国々は強力な地上兵器を持っていた。

地上を疾風のごとく走り、どんな物理攻撃や魔法攻撃も跳ね返し、強力な破壊力を持つ兵器を自由自在に扱う超兵器。


 王国の歴史を勉強していた時、アイラの質問に第二王子エメロンが酷く面倒くさそうに答えてくれた時の言葉が蘇る。


 ──かの兵器は世界を走破し、

かの兵器は文明を破壊しつくし、逃げ惑う者全て血肉に変え、圧倒的攻撃力と防御力を備えた、鉄壁の超兵器。

かの兵器は世界を走破し、王国を頂点の道へといざなった。

かの兵器はこう呼ばれた、幾千万を破壊する兵器──。


千破チハ……?」

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