第4話
帝国軍が去り、僕達……いや、シェシアだけ王国の城内に招き入れられた。
現在、僕は城外に待機……というか放置中である。
正確な時間は分からないが、少なくとも夜であることは間違いない。
眼前に広がる星空は、いつも見ていた星空よりも美しく、沢山の星が見える。
……けど、気のせいだろうか。
綺麗な星空ではあるけど、気持ち星の密度が薄いような気がする。
まあ異世界だから星の数も違うんだろうけど。
「にしても異世界、か……」
まっさか自分が──いや、そもそもあんな死に方するなんてな。
普通に高校を卒業して、普通の大学に入学、普通に単位を取って卒業して、教員を目指していたけど採用試験に落ちたから非常勤講師として働いてきた。
27年間生きて来て、普通に彼女が出来るようなことは一切無く、無論童貞。
普通の人生を歩んできた僕は、これから先もずっと普通の人生を歩むんだと思っていた。
「まっさか、拳銃で殺されるとはなぁ」
普通の日常が終わるのは突然、異質なものによって終わった。
学校内に侵入した不審者が、どんなルートで手に入れたのか拳銃を持っていて、それに横腹を撃ち抜かれてしまい、僕は死んだ。
その後、この世界に召喚された。
召喚された僕は召喚主であるシェシアの指示に従い、王国を攻める帝国軍を撃破した。
……したはずなのに、僕は城外に放置されてしまう運命。
まあ、明らかに人間……というか生物の姿してないからしょうがないか。
普通な人生を歩んでいた僕にとって、
日本と違って生きていける保証も無ければ、そもそも
チラリと、視界に表示されている〈67〉という数字を見る。
仮説ではあるが、この数字は残りの砲弾の数だろう。
補給の目途が一切無いこの状況で、無駄な浪費は避けていきたい。
それでも全て使ってしまった時には……。
「……シェシアに魔法教わっておいた方がいいな、絶対。」
そうぼやきながらも、心は高揚していた。
不安に思う反面、すこし楽しみな気持ちもある。
僕は異世界に転生して新たな人生を、新たな僕として歩むんだ。
名前も前の世界で名乗っていた名ではなく、この姿、九七式中戦車にちなんで「チハ」と名乗ろう。
ここから始めよう。
僕の新たな人生を。
「……けどせめて、なぜに
「そんなの神のお導きでしょう。結果的に良かったからいいじゃないですか」
「まあそうだけど……って、おかえり。」
城門の横にある小さな扉からシェシアが出て来た。
肩を落とし、まさに「疲れた」というような表情をしている。
「どうだった? 国王との謁見は。」
「はぁ……「君は王国の英雄だ」とか「次も頼む」とか、そんな話ばっかりですよ……。」
肩をすくませながら言う。
「二時間くらい、ずっと同じような内容でした……疲れた……」
「それは……お疲れ様っス。」
「はぁ……とりあえず、城内に入りましょうか。」
「りょーかい。……ちなみに、僕ってどんな認識なの?」
「どんなって、私が召喚した精霊って認識ですが。」
「へ……? 精霊なの!?」
絶対、精霊なんて可愛らしい系統の存在じゃない。
だって戦車だもん。
いかに
精霊とかいう可愛らしい存在じゃないだろ……。
「はぁ……説明すると長くなりますし、明日説明しますから、とりあえず宿に向かいましょうよ……」
「ふぁ……」といかにも眠そうなシェシア。
それもそうか、具体的な年齢は聞いていないけど14~16歳くらいだろうし、今日は疲れただろう。
正直、自分も疲れた。
「りょーかい」
シェシアが手配していたらしい城兵に門を開けてもらい、城内に入る。
そういえば、
道が狭いと、身動きが取れなくて詰みそうなんだが……?
「おお、これは……」
しかし城内の景色が見えた瞬間、そのような不安は消えた。
眼前には、T字に幅約10メートルほどの広さの大通りが広がっていた。
左右には屋台のような二階建ての店舗が立ち並んでおり、店自体は開いていないが、昼間はさぞ賑わっているのではなかろうか。
そして、道の広さはここ限定では無いらしく、壁沿いにある道や脇道なんかもそこそこの幅があるし、戦車でも移動には困らなさそうだ。
それになんというか、すごい……外国に来たような感覚……いや、これが異世界か……!
「宿は確保してるのでいきましょうか。」
「りょーかい」
まあ、俺は外で待機なんだろうけどさ……。
シェシアの誘導で町の中を進む。
左に曲がり、少し進んだら右に曲がって、と思ったら今度は左に、また右に……といった具合に、くねくねと異世界情緒あふれる街を進んでいく。
いくらか明かりが灯っているようだが、帝国との戦時下ということもあって、主観ではあるが街全体が重い空気に包まれているようだ。
「そこの方々。少し、お時間いただいても?」
そろそろ脳内の地図がパンクしそうになった時、街角の暗闇から出て来た人影に突然声をかけられた。
「わたくし、占い師を生業としております、メディ、という者でございます。御二人の運勢などを占って差し上げる事ができます。」
声音から若い女性だということは分かるが、漆黒のローブが暗闇に溶け込んでいて、ハッキリと姿を認識できない。
怪しい占い師、といったところか。
そんなオーラが漂っている。
「どうです?」と少し首を傾げる占い師。
メディと名乗った占い師は、深くかぶったローブの隙間から見える口元を綻ばせ、こちらの回答を待っている。
そして、彼女はこの暗さでもハッキリと分かるほどに透き通った白髪だ。
「……っ!」
占い師。ローブ。若い女性。白髪。そんでもって、多分長髪だろう。
……僕の好みにドストライク過ぎて自然と息が詰まってしまう。
いかんいかん。今は見とれている場合じゃない。
無茶苦茶怪しいぞこの人。
まず、タイミングが不可解だ。
こんな敗戦しそうな活気のない国の中で、今日初めて来た得体の知れない奴らに何の躊躇もなく話しかけてくるって、よくある物語だたら黒幕だったりする奴だ。
それにこの人は、「
即ち、少なくとも僕を
怪しい。怪しすぎるぞこの占い師。
絶対何か裏がある。
いやなんならコイツが僕を
よし、無視だ無視。
正直占いとかそういうオカルトチックな事は信じるタイプだし、異世界で魔法もあるから実際できそうだけども、今は関わるべきじゃない。
そう決意した瞬間。
「ぜひお願いします。」
「わぁ! ありがとうございます♪」
「幾らですか?」
「1デンリです」
「うっ……いいでしょう。払います。」
「毎度あり♪」
ちょ、ちょまーてーよ!
とんとん拍子に勝手に話が進んでいた。
にしてもシェシアって、こんな胡散臭いこと信じるタイプなんだ。
それに「1デンリ」がどれほどの価値なのかは分からないけれど、シェシアの反応的にそこそこお高いんではないだろうか。
後でこの世界の通貨とか諸々の価値観を教えてもらわないと……。
「それでは、まずはこちらの三つの水晶玉から一つ選んでください」
そう言って占い師メディは、それぞれ赤白青の水晶玉を取り出す。
話に割り込もうとも思ったが、既にキャンセル出来るような雰囲気ではなく、僕は成り行きを見守ることにしたのだった─────
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