3話目
——当日
待ち合わせの駅前に少し早めに着くと、背後から「原さーん、おはよー!」と呼びかけられた。誰だろうと振り返れば、そこには見慣れた弓道部員の面々がぞろぞろとやってくる。
「おはようございます先輩!早いんですね」
と声をかけてきた先輩に話しかける。
「いやーそうなのよね。こいつらさ、なんか知らんけど張り切っちゃって、朝から俺に電話かけてきやがったのー!本当いい迷惑だよね」
こいつらと指差された男子数名は、スマホゲームに夢中で話は聞いていないようだ。よくよく見てみれば、剣道部員も混ざっているらしい。
それから、他の参加メンバーが集まるのにそう時間はかからなかった。というのも、みんな駅周辺に住んでいるからだ。
結果、最後の一人は待ち合わせ時間ぴったりに合流した。
——その最後の参加こそ、北条先輩だったのだ。
最初は眼鏡をかけていて気がつかなかったが、近くに来たことで彼だと気が付いた。
そして、彼の方から「おはよう、原さん」と声をかけてきたので驚くあまり、しばし硬直してしまう。
(なんで名前知ってるの⁉︎いやいやいや!きっと聞き間違いだよね?)
と思って彼を見れば、
「あれ、違ったかな?原さんだと思ったんだけど」
と眉根を下げ困った様に微笑まれ、頭がもっと真っ白になってしまった。
やっとの事で絞り出した言葉は、
「はっ原です!」
裏返ってそれしか言えなかった。
まさに穴があれば入りたいとはこのこと。北条先輩はふふっと柔らかく笑ってくれたが、瀬名は恥ずかしすぎてただ小さくなるしかなかった。
何しろ顔が良すぎるのだ。それに加えて所作が狡い。
そばに居られるだけで心臓が飛び出そうになったので、その日の午前中は極力彼と行動を共にせず、他のグループの子と一緒に過ごし、何とか心臓を保つことができた。
しかし問題は昼食だった。大型ショッピングモールの最上階にあるフードコートに集まって昼食をとる。そういう予定ではあったのだが運が良いのか悪いのか、彼の向かいの席に座ることになってしまった。好きな人が目の前にいるという夢の様な状況だからこそ胸の鼓動は速くなるばかり。
永遠に感じられた時間の中、瀬名は黙々と味のしないうどんをすすった。
おかげで必死に平静を装いつつ、波乱の昼食を終えた頃には体力の殆どを使い切り、ぐったりとしてしまった。
先輩達にはもの凄く心配されたが、それでもこの時間が楽しかったので午後は気を持ち直して存分に楽しむことにした。
(だって、勿体無いもんね。先輩たちと遊べるのも最後かもしれないし、楽しまなきゃ!)
いつも稽古を覗いた時にしか顔をあわせることのない、剣道部の女子先輩とプリクラを撮ったり、お茶したりして午前中とは打って変って、午後はとても有意義な時間となった。気づけば北条先輩の事など考えずに楽しい時間を過ごしていた。
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