8話目

 それから二人は気まずい雰囲気のままケーキ屋を後にした。

 しかし、そんな状況であるにも関わらず先輩はエスコートをしてきて、瀬名の心は申し訳なさと不安で押しつぶされそうになってしまう。


(どうしよう……先輩にはずっと気を遣わせちゃってる。私のせいで最悪な雰囲気にしちゃったのに……本当にごめんなさい)

 と彼女は背の高い彼を見上げながら、心の中で尽きない謝罪を延々と述べていたのだった。




「——原さん」

 店を出てから十分ほど経っただろうか。ふと彼が口を開いた。

「……はい⁉︎」

 少し驚いてからもなんとか返事をする。


「ちょっとごめんね」

 言い終わらないうちに、彼の腕が急に伸びてきた。


 そして気づけば、肩をがっしりと掴まれ、彼の胸に収まるような形になってしまう。


「——え?」


 一瞬、なにが起こったのか訳が分からず瞠目する。

(な、なにが起こったの⁇)


 身動きも取れず、ただただ呆然と立ち尽くしていると頭上から声が掛けられた。


「あ、ごめん原さん。あの、今車が危なかったから」

 肩に加わる彼の力が解けて、なんとか腕の中から脱する。


 吃驚したものの、彼の言葉を受けて辺りを見渡せば、なるほど、気づかないうちに交通量多い道に出ていたようだ。

 そして、頭がいっぱいになっていた瀬名はいつの間にか車道側に寄って行ってしまったらしい。


「あぁ、すみません。ちょっとぼーっとしてたみたいです」

(いつもなら気をつけているはずのことなのに……余計に気を遣わせちゃった)


 瀬名は自分の不甲斐なさにますます気を落とす。


「怪我とかなかったからよかった。さっきも言ったけど、本当に無理だけはしないでね。やっぱりちょっと急いで帰ろうか」


 と二人はまたすぐに無言に戻って、駅へと向かったのだった。

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