9話目
目的の駅が見えてくる。
しかし瀬名は、いつになく困っていた。
(どうしよう……別に具合が悪いわけではないし、本当はもっと一緒にいたいけど、なんて言えばいいんだろう……)
恋愛初心者の自分には、この気持ちをうまく表現できそうにない。
既に先輩に気を遣わせているのに、ストレートに告白をしたらどうなるだろう。今の瀬名には先輩が余計に気を遣い、やんわりと断られるであろう未来しか見えない。
(はぁぁ……やっぱり素直に帰ったほうがいのかな)
己の保身、もとい保心のためにも今日は引こうと腹を決めれば、もう駅のロータリーに着いていた。
瀬名の少し前を歩いていた先輩が振り返る。
いつもと違って少し困り眉なのは、きっと瀬名のせいだろう。
「原さん、今日はありがとうね。色んなところに行ったから疲れちゃったかもしれないけど、もし——」
「もし?」
言葉の続きが気になって、問いかける。
しかし彼の表情は、ほんの少しの間逡巡してから、直ぐに諦めたような苦笑いに変わってしまった。
「……いや、なんでもないよ。じゃあ、無理しないで帰ってね」
「ぁあの、別に無理したわけでは……」
これだけは伝えたくて、口を開いたは良いものの、自信がなくなって最後は独り言のようになってしまう。
「ほんとうに気にしなくて良いよ。原さんは優しいから、気を遣わせちゃったかな?そうだったらごめんね」
「だ、だから気を遣ってるわけでもなくて……その、あの、カフェの時のやつも本当は違う意味で……」
前髪の隙間から、ちらりと彼を盗み見る。
既に苦笑いは消えていて、代わりに呆気に取られたような若干気の抜けた顔をしていた。
「ええと、ようは……ぜ、全部楽しかった、です」
二人の間に沈黙が落ちる。
(言った!言ったけど、うぅ……先輩の顔を見るのが怖い。別に告白をした訳でもないのに恥ずかしい)
あまりにも先輩に反応がないので、だんだんと心配になってくる。
「じゃ、じゃあ私はこれで!」
顔の火照りに耐えきれなくなって、踵を返した——その瞬間。
しっかりと、けれど優しく左腕を掴まれていた。
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