第12話
どうしてリヴィが黒川さんのことを知っているのか。
どうして僕が黒川さんに対してどう思っているのか聞いてくるのか。
何も分からず混乱したまま何とか口を開く。
「ど、どう、って……」
「正直に言いなさい。リヴィは虚言なんて求めた覚えはないし、アナタの発言が嘘か本当かはわかるかしら」
ステッキの先端が喉を、トン、と突く。ひやりとした感触。ごくりと息をのむ。
「…もう、学校来ないのかな、とか、そもそも事故遭って大丈夫なのかな、とか、」
「リヴィは」
ステッキが引かれ、無意識に止めていた息を吐く。けど、そんな仕草さえ許さないようにリヴィが僕を強く見据えた。睨むとも違う、やっぱり激情を抑えた顔で。
「『不幸体質の』黒川零についてどう思っているか聞いたのよ。黒川零についてのことは聞いていない」
ふっと視界が暗くなる。雨だろうか。湿った土の匂いが香る。その空気を吸い込んだ。
「その二つの、何が違うの?」
「——は?」
唖然とした顔をするリヴィの目を見ながら口を開く。
「どっちも黒川さんじゃん?」
「……不幸体質かどうか、違うのよ」
「どうやって不幸体質の黒川さんとそうじゃない黒川さんに分けるの?僕は黒川さんを知らないから分ける以前の問題だけど」
「想像する頭がないのかしら。リヴィはまだその頭を吹き飛ばしてないのだけれど」
「話を聞いただけだけど、少なくとも黒川さんは自分のその体質に悩んでるみたいだった。なのに想像で簡単に語るなんて失礼じゃないか」
「………」
リヴィは何も言わず、無言になって俯いている。雨雲が大きいのだろうか。昼過ぎのはずなのに、真夜中のように暗い。背後で遠く、ザアザアと雨粒がコンクリートの道路に叩きつけられている音がする。
「リヴィは魔法少女なんだから、不幸なんていう悪夢をずっと見てた黒川零なんて、」
「リヴィ!!?」
くるりとリヴィが踵を返して走り出した。追いかけようとして、リヴィがステッキをくるりと回すのが見えた。それは、魔法の合図だ。強風が小道に流れ込んでくる。思わず目を瞑って風をやり過ごした時には、リヴィは雨雲が落とした影の中に溶け込んで姿を消していた。
さっきからリヴィは挙動不審すぎる。いったい何が、
「……——あ!!!?」
リヴィの挙動不審の正体を考えようとして、ここ数日ずっと脳裏に蔓延っていた濃霧が一気に晴れる。
魔法。夢。悪夢。不幸。黒川零。
——全部、繋がる。
「っ、リヴィ!!!」
もしそうなら、リヴィは。
雨雲が頭上に来たのか、雨粒が降り出した。視界も足元もどんどんと悪くなっていく。傘も雨合羽も何も持っていない僕は、雨宿りなんて頭になくリヴィを見つけに走り出した。
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