第14話
「よし。これを、最後の魔法にするかしら」
やがてリヴィは一人で立ち、地面に落ちた泥だらけの魔法ステッキを握りなおした。もう、ステッキは震えていない。滑り台の上に立ち、くるりと回してステッキを掲げる。
「ユオ。ありがとう」
魔法少女が小さく、明るく笑う。
「あーしたてんきにっ、なーあれっ!!!」
一筋の光が魔法ステッキに転がった。雨足が一斉に弱まり、重く沈んでいた黒雲が晴れ渡っていく。無数の水たまりには虹が移って、世界がきらきらと輝いていく。
これを、魔法って言うんだろうな。
これが、僕が見た最後の、魔法少女リヴィの魔法だ。
その数日後。僕が毎日のように訪れている放課後の公園に変化があった。
少女が一人、滑り台の上で膝に黒猫を乗せて空を見上げていたのだ。
腰ほどまである黒髪に、ピンクの瞳。かなり大きい黒のフード付きパーカーに短パンとブーツ。
フードは被っておらず、魔法ステッキは持っていない。
僕は駆け寄って、自分でも分かるくらいはしゃぎながら声をかける。近寄らないで、とは言われなかった。
「おはよう、黒川さん!」
「——おはよう、ユオ。夕暮れ時だけど、おはようで構わないかしら?」
「おはようは、朝言うものじゃなくて起きたときに言うものだから構わないよ」
そう言うと、黒川さんは可笑しそうに笑った。
黒川さんに断って、スマホを取り出した。お母さんとのトークルームを開き、「ごめん、学校に用があって帰るのが夜になるんだ」と打ち込む。
嘘だけど、まっかではない。黒川さんと約束した、きらきら探しに行くのだ。
少しそわそわしている黒川さんと共に、夜の学校の屋上への扉に辿り着いた。文芸部の名目で借りてきた鍵で開けてドアノブを捻る。錆び付いたドアは、ぎぃ、と音を立ててゆっくりと開いた。少女が見やすいようにドアノブを抑えたまま半歩下がる。
「ほら、ここがお月さまに近い場所だよ、ロマンチスト」
「わぁあああああっ……!!!」
あの日の公園で見た時と変わらない無邪気な声をあげる彼女に微笑む。よかった。これで少なくても一つ、魔法を使わずに、学校という限られた場所でもきらきらを見つけることが出来た。これは彼女にとって大きな一歩だろうから。
満月に向かって両手を伸ばして何度も飛び跳ねる彼女と見る月は、少し大きく見える。
十数メートルの違いなんて、三十八キロメートルの中ではちっぽけなものなのに。
「む~、どうして人類はお月さまに行こうとしたのかしら?星は見える異世界だからいいんじゃない!」
ロマンチストな少女の納得いかな気な顔に僕は首を傾げる。
「ロマンチストは、月面に降り立つのがロマンじゃないの?」
「そんな安っぽいド定番なもの、ロマンって認めないかしら」
ううん、分かった気になってたけどロマンチストって難しい。
「ユオ。明日また、……学校で。呼び方は零でいいのよ!」
そう言ってくれる隣の席のロマンチストに僕が恋をするのは、まだもう少し、きらきらを見つけた先のお話。
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