第4話
「昨日はサンキュ、白明!はい、お礼だ」
「お、購買のパンだ。ありがと新田」
「ありがとうはこっちのセリフだ。ボール、一個でもなくしたのが顧問にバレたらもう終わりだからな。ガチ助かったわ」
「あぁ、テニス部の顧問きついって聞くよね。お疲れ様」
「ま、楽しいからいいんだけどな」
昼食はもっぱら食堂だったので、購買パンは意外と食べたことがない。新田と教室で話しながら食べる。
「あ、美味しい」
「だろ。あとそれ購買のばあちゃんと熾烈なる値下げ交渉してきた戦利品なんだぜ」
「何円引いてもらったのさ?」
「三十円!!」
「お快挙じゃん」
どうでもいい話題で笑い転げながら食べ終えた購買パンのビニール袋を畳んで鶴を折る。
「お前中学生かよ」
「え新田には言われたくないんだけど」
「どういう意味だよしっつれいだな!泣くわよん!?」
「ちょ腹いたいからがちでやめてその顔」
「これぇ??」
「ぶっ」
「おいふくなよ?!」
完成した鶴を新田にぽいっと放りながらお腹を抱える。正面では、鶴を分解しようとして引きちぎっている新田の間抜けな声。
他人にとってはどうでもいい、ありふれた教室の一風景だ。
ただ、昨日、「ありふれていない」ものに触れた僕はふと思う。
他人にとってはありふれていても、本人や別視点から見ればありふれたものなんて何一つないのかもしれない、と。
そうこうしているうちに昼休みの終わりを告げるチャイムがなり、先生が入ってきた。教卓に上がった先生が出席簿を開く。
「出席確認取るぞー。欠席はー…今日も黒川だけか。じゃ、号令―」
サラリと毎授業流される名前。〈黒川零〉。僕の隣の席の、一度も姿を見たことのないクラスメイトだ。
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