第5話

掃除の時間になり、新田と教室の掃除をする。同じ班の人はゴミ捨てに行っていて不在。今まで気にしないようにはしていたものの、やっぱり気になる。


「なぁ新田」

「ん?どした?」


首を傾げた新田に、視線を下げられた一つの机に向けながら聞く。


「僕の隣の黒川さんってさ、なんで学校に来てないかとか知ってる?」


ずっと気になっていることだ。僕が時々黒川さんを気にしているのは新田も知っていたから、あぁ、という顔をされる。


「黒川なー。さぁ…一年のとき黒川とクラス被ってなかったから詳しくねぇや」

「そっか…係とか一緒なんだけど、一回も学校に来てないからさ。どんな人なんだろ、って思ってるんだけど」


僕は庶務、つまり雑用係なのでペアでする係になっている。だけど、庶務は仕事量が多いからと不人気で僕以外に立候補する人がおらず、結果係決めの日も休んでいた黒川がその空席に押し込められることになった。


数合わせみたいなものだから実質庶務は僕だけで、先生から頼まれる雑用は何かと多いので体育係の新田によく手伝ってもらっている。


「そういうのは女子のほうが詳しいだろ。女子友達とか女子の部員に聞けば分かるんじゃないか?」


いやそれはそうと黒川さん…と考え込んでいると、新田が首を傾げながら提案してくれる。だがしかし。僕はじとぉ、と新田を見上げる。


「僕に女子友達がいるように見える…?文芸部もそんなに全員で活動してるわけじゃないから繋がり薄いし」


クラスの女子とさえほとんど話したことがないのに女子友達なぞいるわけもない。文芸部は基本ここでの活動が主だから、同じ学年の部員の人でさえ顔見知り程度である。


あそっか、と声をあげた新田が、自分を立てた親指で指す。


「じゃ、俺がテニス部の女子に聞いとくわ」


………神か。


「え、お願いしますありがと新田」

「気にすんなって。俺も黒川は気になるし。それにお前と俺の仲だろっ!」

「ほんと助かる…んだけど、新田にウインクはオススメしないね」


神と内心で崇めた友人の顔は両目をぎゅっと閉じてぎゅっと真ん中に寄せたような非常に不細工な面になっていた。

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