第6話
新田と別れて下校する最中、魔法ステッキを持った黒パーカーの少女を視界のうちに探しながら歩くも見つからなかった。
一年半通っていて見かけたのは昨日の一回だけなんだから、昨日の今日で会えると期待しているほうがいけないのかもしれない。
「わ、綺麗な花だ」
道端に咲く綺麗な花の写真を撮ろうと電源をオフにしていたスマホを起動させる。連絡を知らせる、ヴヴ、という通知音。写真を撮る前にメッセを確認しておこうとアプリを開いてトークルームを確認する。
数少ないトークルーム一覧のうち、メッセを飛ばしてきたのはお母さんのようだった。いくつかの公式アカウントからの通知を無視してお母さんとのトークルームを開く。機械音痴なお母さんらしい短文のメッセには、短文ゆえの淡泊さが纏うシリアスさがあった。
『猫拾った』
「ね、猫を拾ったぁ?」
ぽかんとしていると、しばらくしてその猫の写真も送られてくる。若干ブレているのはスマホのカメラ機能に不慣れだからか。少し見えずらいけれど縮小して写真を確認する。
ブレていてもわかる、野良とは思えない綺麗な黒い毛並みをした金色の目の猫。スマホのカメラを向けられても怖がらなかったのか、堂々とした姿勢と顔つきだ。
「………み、見覚えあるぞ…??」
あの魔法少女が連れていた猫も、こんな猫だった気がする。
家に急ぎ足で帰ると、玄関でスーツ姿のまま黒猫と戯れているお母さんがおかえりなさいと迎えてくれた。
「この子、ウチの玄関の前にずうっといるのよねぇ。綺麗な毛並みだし痩せてもないしどこかのにゃんちゃんだと思うんだけど……由緒、この子に見覚えとかない?餌あげたりした?」
「……餌はやったことないけど、見覚えはあるかも。人と一緒にいたの見たことあるから」
「あら本当?じゃあやっぱり飼い猫だったのね。脱走してきちゃったのかしら?」
にゃーん、と鳴く黒猫。鳴き声もあの黒猫とそっくりだ。まさか、あの魔法少女のもとから離れたのだろうか。それならあの子は心配してるんじゃ。
「今日はもう外も暗くなってきてるしウチで預かりましょうか。由緒、この子の飼い主さんとは連絡取れる?」
「ううん、見かけただけだから連絡先まではしらないんだ。明日土曜だし、探してみるね」
でも、魔法少女って探しても見つかるものなのだろうか?
……見つかるわけないよなぁ、この黒猫が魔法少女のところまで案内してくれるなら別かもしれないけどさぁ、と考えながらも馬鹿正直にお母さんに魔法少女だのなんだの言うわけにはいかないので何も言わないでおくことにした。
お母さんはほっとした顔で玄関の鍵を開けてドアノブを捻る。
「そうだったわね。じゃあそうしましょうか。にゃんちゃん、中入る?」
うにゃあ、と鳴いて黒猫が僕に飛びついてきた。
「わ、ちょ!?」
「うふふ、由緒に懐いてるわね。貴方を追いかけてきたんじゃないの?」
「そ、それはないと思うけど……」
腕の中の金色の瞳にジッと見上げられると、なんだかそんな気がしなくもなかった。
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