第8話
こっち、と手招きをされて路地裏から抜け出した僕は、やはり人気のない公園でリヴィと一緒にいた。
僕はベンチに座っているのに、再び猫耳フードを被ったリヴィは滑り台の上にいた。「こっちのほうが空に近いじゃない」ということらしい。
「この子、預かってくれてたんでしょう?ありがとう」
「あ、いや大丈夫。……な、何で知ってるの?」
「この子からキミのにおいがするもの」
「は、はぁ」
返ってくる答えが全部僕の想像とは全く違っている。ありふれた、の外側は、こんなことであふれているのだろうか。
「その黒猫、名前ないの?」
「ないわよ。そっちのほうが自由でしょう」
………なるほど。ちょっとこの魔法少女のことが分かったかもしれない。
「ロマンチストなんだね」
僕が笑いながらそう言った途端、先程までの淡々とした態度が嘘だったかのようにリヴィがピンクの瞳を輝かせた。
「リヴィがロマンチストってこと?」
滑り台から飛び降りて僕を覗き込むようにして聞いてくるリヴィ。余程嬉しかったのか微かに頬が紅潮していて、可愛らしい笑顔を浮かべている。
「え、う、うん」
「へ~、そっかーふーん!」
先程まで漂わせていた謎キャラ感など欠片もなく、にこにこと嬉しそうにする少女。気分が乗ったのか、リヴィは僕の目の前に立ってえっへんと胸を張った。
「何か困ったことがあればこの魔法少女リヴィになんでも言いなさい!全部が全部叶えてあげられはしないけど、力になれるかもしれないのよ?なんたって、リヴィには魔法があるもの!」
その思いもよらぬ誘いに、僕はぱちくりと瞬きした。もう一度この少女と会って話をしてみたいと昨日願ったのは僕だけど、まさか叶うとは。しかも魔法少女が話をしようと言ってくれている。今回このチャンスを逃せば、もう少女のもとまで僕を導いてくれる黒猫はいないかもしれない。出来るだけ、長話になりそうな話題がいい。
少し頭を悩ませた後顔を上げて、どんとこい!としている魔法少女に話を振った。
「クラスに不登校の子がいるんだ。その子が学校に来れるようにするには、どうしたらいいかな」
思い出すのは、隣の空席。高二に上がってからその椅子の主が座ったことは一度もない。
ロマンチストの考える解決策はどんなものなのか。一音も聞き逃すことなく覚えようと耳を傾けて、「そんなの分かんないのよ」固まる。
「………え?」
「だから、そんなの分かんないのよ。リヴィはユオのクラスにいる不登校生じゃないもの」
当たり前じゃない、という顔をするリヴィに僕もぽかんとしながらなるほどと思う。一理ある。
「えそれでもなんかない?!自分だったらこう、みたいな!」
僕のツッコミを受けて考え込むように腕を組み指先を顎に添えるリヴィ。絵になる、っていうのはこういうことを指すのか。ぶかぶかのパーカーの袖から覗く白い指が、その儚さと対極にあるような鮮烈なピンクの瞳を際立てている。
「そうね……リヴィなら………」
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