第9話
「リヴィなら、行かないかしら」
返ってきた答えに思わずぱちくりと瞬きをしてしまう。行かない……?
戸惑う僕とは逆に、リヴィは自分の出した答えに満足そうに頷いた。
「うん、リヴィは学校には行かない。自由じゃないもの。限られた場所で探せるものなんて限りがあるのよ。そんなのつまらないかしら。リヴィは広い世界で色んなものを見つけてはしゃぎたい」
早速なにかを見つけたのか、僕の腕をステッキでべしべしと叩きながらリヴィが空を指差した。茜が差す、紫がかった空。その藍色の端に、金色の煌めきが見える。
「お月さまかしら。空に上がるのが早いのね————もっと近くで見てみたい」
見惚れるように、金色をその瞳にはめ込む魔法少女。
月を近くで見てみたい。小学生のような願い事だ。でも、僕は思う。リヴィが言う「お月さまを近くで見てみたい」はもっと別のことで、もっと単純なことなんじゃないだろうか。だって魔法少女はロマンチストだから。
「近くで見えるかもよ、月」
「ほんとう!!?」
すぐにキラキラと目を輝かせる魔法少女に、うん、と頷く。そして提案を重ねる。返事は即答だった。
「でも、学校に行かないとなんだ。今度行ってみる?」
「行かない」
にゃーん。黒猫が、滑り台の上で鳴く。
「——…え」
先程までのきらきらが嘘だったかのように消え失せた、曇ったピンク色で僕を見上げるリヴィ。その瞳は、現実を拒むように、夢を見ているようにぼんやりと霞がかかっている。
さっきまでは、月が浮かぶ満天の星空だったのに。
「リヴィは夢をみているもの。学校に行くには、起きなくちゃいけないんでしょう。嫌かしら。断固拒否なのよ」
「…………起きない、の?」
「起きない。リヴィは夢をみる」
まだ声をかけようとする僕を払い捨てるように背中を向けたリヴィは、手の中の魔法ステッキを握りしめた。
「リヴィが起きたら魔法は悪夢になる。リヴィはそんなの認めない」
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