第14話 世間の反応

 試写会の翌朝。のどが渇いて目が覚めた。けっこう飲み過ぎたな。テツヤ兄さんがうちに泊まるかと思ったのに、タクシーに分乗した時に分かれてしまった。だって、

「俺、テツヤと同じ方面だからこっちね。」

「レイジのうちどこ?ああ、うちと同じ方面だ。乗れよ。」

ってな感じで、不覚にも誠会のメンバーに引き裂かれてしまったのだ。引き裂かれ……言い過ぎか。

 起き上がって、ちょっと頭痛なので思わず顔をしかめ、水を取りに行った。冷蔵庫から冷たい水を取り出して飲むと、だいぶ気分が良くなった。そして……ふとスマホに目が行く。

 気になる。俺とテツヤ兄さんのカミングアウトは気づいてもらえたのだろうか。ひょっとして、今頃炎上してたりして。それはそれで怖い。恐る恐るスマホを手に取り、ソファに腰を下ろした。

 あるある。テツヤ兄さんと俺が並んでいる写真。なんなら、俺ら2人の写真がネット上に溢れていると言っても過言ではない。いやまあ、俺のタイムラインには、だが。

 何々?「仲良し試写会レイジ・テツヤ」ふむふむ。「照れ笑いのレイジ」なるほど。「誠会の夜」って、何?街中で撮った写真まで!これは、誰かがネット上に上げたんだな。この写真、もらっとこ(テツヤ兄さんが俺にちょっと寄りかかって撮ったツーショットだ)。

 ……うーむ。特に服の事には触れていないな。じゃ、ちょっと検索の方法を変えてみようか。「テツヤ・レイジ 試写会 衣装」で検索。お、あった。おー、ちゃんと考察されているじゃないか。すごいなぁ。やっぱり詳しい人はいるんだな。ただ、これはブログのようだ。とくに炎上しているとかバズっているとかではないようで……。そうか、世間ではあまり関心を持たれていないのか。

 ホッとしたような、残念なような、複雑な気分だ。そこへ、テツヤ兄さんから電話がかかってきた。

「もしもし。」

「レイジ、あの服の事、出てたな。」

「うん。でも、地味だね。」

「1つ、炎上して既に削除された投稿があるよ。」

「えー!そうなの?」

「ああ。なんか、封殺されたっぽい。」

「そうか、それは……」

残念、と言いかけて迷った。やっぱり、俺たちの事が公になったら、それはそれで今後の仕事に差し支えるのではないだろうか。だから、このくらいでちょうどいいのでは。これでも精いっぱい俺たちの事を発表したと思ってもいいのではないか。

「ま、こんなもんでもいっか。また今度、別の方法を考えようぜ。」

テツヤ兄さんも、明るくそう言った。人に発表しなくても、俺たちがお互いを想っている事が分かればいい。そっか。テツヤ兄さんがこれを企てたのは、俺を安心させる為だったんだな。カミングアウトしよう、と言ってくれた事で、ナナさんの事も誠会の事もふっとぶくらい、テツヤ兄さんの想いを感じた。テツヤ兄さんの、俺への愛を感じた。

「うん。」

俺も明るく返事をした。それにしても、封殺したのは間違いなくテツヤ兄さんのファンだろう。リアコと呼ばれるリアルに恋しているファンたちだ。俺とテツヤ兄さんの仲を推してくれるファンはいるにはいるんだけど、リアコ勢に比べると少数派なんだよな。でも、その少数派が、今回の試写会の衣装の事を喜んでくれているのは分かったから、まあ良しとしよう。密かに応援してくれる少数派にも、たまにはご褒美をあげなくちゃね。

「レイジ、俺またパリに行ってくるから。」

テツヤ兄さんが言った。

「いつ?」

「明日。」

「えー、聞いてないよ。」

「急に決まった。」

「そっか。もう一回……抱きたかったのに。」

「……。」

沈黙か。テツヤ兄さんにとっては、エッチは大した事じゃないのかな。いや、俺にとってもエッチが目的なのではなくて、触れたい、触れ合いたい、愛を確かめたい……。

「じゃあ、今夜うち来るか?」

はっ!テツヤ兄さん!

「行く!」

俺が勢い込んで言うと、テツヤ兄さんはフフフと笑った。

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