第7話 別れた
テツヤ兄さんに電話をかけたが、出なかった。仕事中かもしれない。俺はメッセージを送った。
「この間は、電話を途中で切ってしまってごめん。テツヤ兄さん、好きだよ。」
これだけ。でも、ちょっとスッキリした。そうだよ、俺はテツヤ兄さんの事が好きなんだ。
リビングに戻ると、カズキ兄さんが勝手に冷蔵庫から飲み物を出して、ソファに座って飲んでいた。
「どうだった?」
首だけこちらに向けて聞いてきた。
「出なかった。でも、メッセージ送ったから。」
俺が言うと、
「そっか。ま、その顔なら大丈夫だな。」
カズキ兄さんがそう言って笑った。
「カズキ兄さん、ありがと。」
飲み物くらい、飲んでもらって構わない。
「そういえば、俺がここに来ている事を知られると、ややこしい事にならないかな。」
カズキ兄さんが言った。ちょっとニヤけた顔をしている。
「ん?なんで?」
「ほら、レイジ・カズキ推しのファンが知ったらさ、喜んじゃうじゃん?騒いじゃうと、テツヤに変に思われたりして。」
カズキ兄さんは、すっごくニヤニヤしている。何言ってるんだか。
「カズキ兄さんには、シゲル兄さんがいるだろ。」
俺も、冷蔵庫から炭酸水を取り出してきて、プシュッと開けた。
「あー、その事だけどね。別れたんだわ。」
カズキ兄さんは、俺の方ではなく、真っすぐ前を見てそう言った。
「は?!なんで?」
俺が驚いて聞くと、
「なんでも。」
そう言って、ちょっと下を向いた。俺は、何となく気の毒になって、近づいて行ってカズキ兄さんの肩に手を置いた。そして、頭を撫でた。
「レイジ……俺と付き合う?」
下を向いたまま、カズキ兄さんが言ったので、びっくりして数歩下がった。すると、カズキ兄さんは急にクククっと笑い出した。
「ククク、あははは。冗談だよ。」
カズキ兄さんが顔を上げて笑った。なんだ、びっくりした。
「そういえばさ、あのフェイク動画のナナの事だけど、俺でもナナは偽物だって分かったんだよね。」
カズキ兄さんが、急に思い出したように言った。
「え、そうなの?」
「うん。正直、テツヤの方は本物かどうか分からなかったけど、ナナの方は分かったんだ。」
「なんで?」
意外な事を言うカズキ兄さんに、俺は食い気味に言って詰め寄った。
「ナナはもっと背が高いし、あんなダブダブの服は着ないんだ。いつもシュッとしてるって言うか。ナナと親しい人なら知ってる事だよ。」
カズキ兄さんも、テツヤ兄さんやナナさんと歳が同じだ。カズキ兄さんもナナさんと親しいわけか。
「だからさ、テツヤがナナの偽物の事をすぐに分かったからって、別に特別な事じゃないって事だよ。」
そうなのかー!それなのに、俺は変な嫉妬をして……。それにしても、気になる事が。
「ねえ、ナナさんって、テツヤ兄さんの事が好きなの?」
俺は思い切って聞いてみた。すると、
「ん?どう……かな。」
歯切れの悪いカズキ兄さん。やっぱりそうなんだな?
「まあ、テツヤは俺と違って女にモテるからな。」
「つまり、ナナさんだけじゃない、と?」
「あー、あははは。」
カズキ兄さんは笑ってごまかした。そうなのか。いや、女だけじゃないのでは。
「ところでレイジ、お前運動してるか?運動しないで酒ばっか飲んでると太るぞ。」
カズキ兄さんが立ち上がりながら言った。
「あー、運動はしてない。」
なんか、はぐらかされたような気もするけど。
「運動しなさい。とにかく、運動。そうしたら曲も作れるよ、きっと。」
カズキ兄さんが、兄さんらしい言い方をした。
「うん、そうだね。」
俺がしみじみと言うと、
「じゃ、今から一緒に行こ!」
と言って、カズキ兄さんが俺の腕を引いた。おいおい、今から?ちなみに、今は昼過ぎだ。
「どこ行くの?」
「会社だよ。会社のジムで運動だ。今ならたぶんタケル兄さんもいるから、曲の相談でもしなよ。」
急に出かけるなんて嫌だと思ったが、確かにタケル兄さんにはいろいろ相談したいかも。
「分かった。今用意する。」
俺は、カズキ兄さんと会社に行って運動する事にしたのだった。
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