第6話
せっかく会社の利益になる事を提案したのに、却下されてしまった。
タカミナツスターク社は、狩猟部と言う、人類の天敵と戦う集団を保有している都合上、都市の防衛にも協力することになっている。
通常は、コロニー等の警備軍から要請があった場合のみ戦闘が許可されるため、いくら勝てると言っても、従業員を無暗に戦闘に参加させられないのは理解できる。
しかし、直接攻撃を受けた相手になら、許可なく防衛行動を行ってもいいことになっている。
(いや、正確には微妙にニュアンスが違うけど。)
現在は、銀翼内で戦闘が行われていて、タカミナツスターク社からは遠いとは言え、コロニー内の至る所に攻撃を受けた痕跡がある。何箇所かは、従業員の住所として登録している地点の付近だ。
ならば、それを理由に戦闘に参加しても問題ないだろう。
「なんか……、参戦の根拠を歪曲して考えてない?」
「歪曲じゃないですよ?
現在の状況は、十分に従業員の生命を脅かす事態に、相当すると判断できます。」
更に、ライブカメラで見る限り、タカミナツスターク社が現在開発している試作3Xの方が性能がいい。しかも現任のテストパイロットも腕がいい。
脅威を排除出来る可能性が十分にあるのだから、早目に対処すべきだろう。
「本音は?」
「あの機動性は、通常ならパイロットにかかる負荷が高いはずです。それなのに、今までの時間で、機動性を落とさずに戦闘を継続出来ているは、何か特別な技術が使われている事が想定されます。
情報の入手の為に、この機会を逃すはもったいないかと。」
「うーん、気持ちは分かるけど、無理やり戦闘に参加すると、被害が大きくなる可能性もあるし、事後処理も面倒だからね……。」
まあ、確かにその通りだ。
エシルは試作3Xを稼働させられる権限を持った一人だ。エシルがダメと言うのなら、諦めるしか無い。
(うーん、実に残念。)
所属不明の機体は、最終的に銀翼市の警察辺りに没収されるだろうが、こっそり解析したり、破損した周辺なら部品の回収が出来ると思ったのだが。
そうなると、エシルは何故、私にコミュニケーション端末の起動を命じたのだろうか。
状況の解説だけなら、人型である必要はない。本体でも音声による会話は可能なのだ。
「は!もしかして、3Xではなく、私自ら戦場に立って、所属不明機を回収しろ、と言う事ですか?」
「違うよ?そもそも、あなたは実戦苦手でしょう?
確かに、人型なら目立たないし、こっそり部品位なら回収する事も出来そうだけど……。
いや、でも一人で2機の3Xの相手とか、到底無理じゃない?」
「今ちょっと、ぐらっと来ませんでした。
それなりの装備があれば、可能かと思います。第二装備開発課が先日送ってきたやつとか。」
「いや、そのレベルの装備は貴重過ぎて、3X2機じゃ割に合わないから。
それに、危ないからコロニー内で使ってはダメ。」
装備の使用許可が下りないのなら、諦めよう。
流石に不利な状況に挑めるほどの勇猛さは持ち合わせていない。
「普段は臆病なのに、どうして未知の技術が絡むと、貪欲になるのかな。」
「臆病とは、心外ですね。
人工知能として一般的なレベルの、ごくごく当然の危機管理の範疇だと思っています。」
「そーお?私、あなたに出会って、初めて、人工知能でも悲鳴を上げるんだって、知ったんだけどね。」
「知識のアップデートに貢献出来たのでしたら、大変光栄です。」
「そういう返しが、最近上手くなってるね。」
「アハハハ……。」
私は人工知能なのだ。
確かに、時々初対面の人間に名乗り忘れて、妙な反応をされることがある程、肌の質感とか顔色とか、呼吸とか、よく出来ていると言われる。
一応、自律思考機能も搭載していて、ボードゲームの相手をしていた時代のとは、比べられない程に、高度にはなっている。
が、だからと言って、周囲の状況を把握して、起こり得る危機を予測して、事前に行動しておいたり、対策しておくのを常に行える訳では無い。
想定外の事象が発生して、身の危険を感じれば、それに対応する行動をその場で判断して実行するしか無いのだ。
それが偶々、周囲に危機を知らせる必要がある、と判断し、悲鳴を上げるのが一番効率がいい、と言う結論に至ったに過ぎない。
そこは、エシルに限らず、人間全般に理解してもらいたいところだ。
「でも、あの時って、そんなに大騒ぎする様な事だった?」
「『バグ』と言う言葉は、機械に虫が侵入して、挙動がおかしくなった事例が由来なんですよ。
つまり、私達機械にとって、虫は身の危険を感じる相手なんです。」
「まあ、そう言う事なら……。」
どうも、納得してもらえて無い気がする。
「とりあえず、話を戻すとね、機材の移動をお願いしたいの。特に試作機とか装備類は、迂闊に紛失させるわけにいかないから、どこか安全なところに保管しておきたいし。」
まあ、いつまでも引きずりたく無い話なので、話題を変えてくれるなら、ありがたい。
「そう言う事なら、どこに保管しますかね。」
社外に運び出すのは危険なので、社内でセキュリティーレベルの高いエリアに運ぶのが望ましい。
会社地下にある、製品評価のための部屋が比較的条件に合うのだが……。
「製品評価室のどれかがいいかもね。
エレベーターは、影響受けてないかな?最初の大きな揺れが気になるけど、商業区だよね?」
「いえ、最初の揺れは、商業区のとタイミングが同じなのですが、工業地区内での、と言うか第二大型製品評価試験室での爆発が直接の原因です。」
「え?うち?どういうこと?実験の失敗か何か?」
「そんな、半世紀前のアニメ作品じゃないんですから……。
爆発直前に、試験室に何かを施している人達がいました。多分、その時に爆発物を仕掛けられたのかと。」
第二大型製品評価試験室とは、タカミナツスターク社の製品の中でも特に大型、宇宙船をまるまる一つ格納して、評価できる様な部屋だ。銀翼の一番外側の壁のすぐ内側、会社の最下層にある。
「それが犯人?うちの従業員ってこと?」
入室には、タカミナツスターク社の身分証が必要になる。
色々試行錯誤の末、やっぱり物理的なキーがあった方が管理が楽、と言う事になりカードをタッチする方式だ。
「ちょっと詳しくは分からないです。
入室時は代表者だけがドアを開けてしまったので、他数名の情報が分かりません。
ただ代表者のIDから従業員DBを参照したのですが、所々歯抜けな上に、最初の入場日時が初期値のままなので、偽造なのは明らかです。」
「まあ、カード式だからね。
じゃあ、そこにあったのを破壊されたのかな?被害は?」
第二大型製品評価試験室の防犯カメラは、破損している様で、レンズカバーのひび割れで、かなり見辛い。
一応、ひびの間から室内を見てみると、宇宙が見える所がある。
試験室の床面には、元々宇宙空間に出るための非常に大きな扉があるが、それが空いているのだろう。
「宇宙が見えますので、試験室床面の出口が破壊されたようですね。」
「それって、宇宙船用の気密扉だよね。試験室の物、何もかも吐き出されたんじゃ……。
犯人以外に作業者はいなかった?」
「そうですね。爆発の前に入室した正規の従業員はいなかった様です。
そう言えば、格納されていたセレスティアの試作2号機が無くなっています。
爆発直後に、飛び立っていますので、盗まれた様ですね。」
「それ……、一番最初に言って。」
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