第4話

 そう言えば、来週は早々から狩りの予定だった。

 狩りの対象は、何と言うか……、機械生命体?

 「生命体」と言われているが、各個体に繁殖能力があるわけではなく、どこかで生産されている物らしい。ただし、生産者や製造方法が全くの不明なんだとか。

 一般には、「機械獣」あるいは「機獣」と呼ばれる。

 様々な形状をした個体がいて、昆虫や、節足動物の様なのが多い。小さな個体でも人よりも大きく、大きな個体の場合、高層ビルや戦艦の様な物のまでいる。アルデリアの陸地や海中に特に多く存在し、大気中や、周辺の宇宙空間、衛星の地表面にも少数が存在している。

 殺傷能力のある武器を内蔵している個体が殆どで、基本的に人を襲う。目の様に見える部位があり、カメラ等のセンサーが内蔵されていて、画角に入ったであろう瞬間に攻撃される。

 稀に襲わない個体もいるが、だからと言って迂闊に手を出してはいけない。故意でなくても攻撃が当たろう物なら、次々と仲間を呼び寄せ、手痛い反撃を受けるのが一般的らしい。

 それは機獣らにとって、重要な役割を担っている為だろうと言われる。

 過去には街やスペースコロニーが襲われ、多くの犠牲が出たという記録もあり、少し前の人類にとって、機獣は天敵とされていた。

 で、何でそんな危ないのを狩ろうとするのかと言うと、多くの資源の入手元となっているからだ。

 小さな個体でも、多くのセンサー類や電子機器が組み込まれており、丁寧に分解することで、様々な製品に活用出来る。骨格や装甲は、金属や樹脂で出来ており、溶かして再成形して、利用されている。

 しかも、時々部品の性能がアップするらしい。

 タカミナツ社は、元々は機獣達を捕獲、解体して、その部品を販売する会社だったらしい。ただし、捕獲どころか、うかつに接近するのもかなりの危険が伴うので、多くの場合が故障して稼働しなくなったり、動きが鈍くなった個体を狙うのが常だったそうだ。

 そのうち、入手した部品から様々な武器や道具を開発したことにより、生存率と成功率が飛躍的に上がった。捕獲や分解の精度も向上し、市場に提供できる部品の品質も向上した。

 その実績から、やがてそれらの道具が他者から要望される様になり、販売した結果、現在では、機獣との戦闘に関わる製品を製造する企業に発展した。

 最近では部品を材料から製造する企業も増えているため、機獣の部品の売り上げは下がってきていると言われる。それでも、有用な材料の調達は出来るため、そちらの需要の方は高い。さらに、似た形状の個体でも、陸上と海中、宇宙空間とでそれぞれ使われている部品や材料が異なる。

 そのため、タカミナツ社の狩猟部は、定期的に各地に赴いて機獣を捕獲することになっている。

(うん、覚えてる。)

 流石に合格点を取るまで、3回も学習し直されれば、このくらいは頭に入る。

 むしろ、最初に一発合格した、「狩りの実践編」の方が、今は思い出せない位だ。まあ、現物を見れば思い出すだろうけど。

 そう言えば、レミは一発合格だったらしい。パソコン上で、映像と音声が流れるだけの研修で、良く頭に入るものだ。

 と言うか、なぜ眠くならない?

 「ビジネスにおける人権」とか、「品質管理規定」とかの研修もあったが、こちらに確認試験があったら、一生合格出来ない気がする。

 まだ合格出来ていないのが、「収集物管理規定」の研修だ。

 主に、狩の際に仕留めた機獣の扱い方についての社内ルールを理解する研修だ。

 殆どが回収後、機獣を解体する時の注意事項と、得られた部品の管理方法に関する内容なのだが、一部は狩猟時の安全確保の内容の含まれる為、狩猟部では必須科目になっていて、理解度の確認の試験が行われる。

 狩猟業務に必要な内容は満点なのに、部品管理の範囲のせいで、5回も再履修判定になってしまった。

 来週中には合格しないと、狩の実作業でも出来ない事があるらしい。

(先輩達も、レミが無事に合格しているからって、諦め感があるし……、悔しいから、週末は勉強しておくか……。)

 で、来週からの狩りだが、私達新人は見学で、現場に同行する。

 本来なら配属から数ヶ月は狩りに使用される機器類の操作方法を訓練するのだが、私達は最低レベルの事が出来ているからと、ちょっとだけ早いらしい。

(まあ、ちっちゃい頃からシミュレーターで遊んでたしね。)

 因みに、狩りに使われる機器類で主要なのは、ざっくり言うと戦闘用ロボットだ。

 大きく2種類あり、一つは身体の周りに筋力増強のための骨格と装甲を身に着ける、パワードスーツとも呼ばれるタイプ。

 もう一つは大きな人型のロボットで、胴体に人が乗って操縦するスペースがある、昔からアニメや特撮映画に出てくる様なタイプだ。

 どちらも、銃火器類を装備しているが、機体サイズに合わせて所持出来る数や性能に差がある。それぞれ、メリット、デメリットがあることから、使い分けがされる。

 私とレミが担当することになっているのは、後者だ。

 後者の方が大きく機動性は悪い一方で、装甲が厚く、威力の高い武器を装備するため、新人の被害が少ないのが理由だ。

(被害か……。)

 昨年も一昨年も入社一年未満の社員が、狩りで負傷する事態が起きている。

 幸い、その時に死者は出ていないらしいが、いずれもアルデリアで活動する部隊で、複数の機獣と遭遇したことが原因らしい。

 宇宙の狩場は、比較的機獣との遭遇率は低いらしい。一体一体、慎重に仕留めていけば、負傷者が出る様な事態にはならないとの事だ。

(そう言えば、配属初期に主な狩場の特徴について説明を受けた様な……?

 よく覚えていないから、来週の狩場くらいは復習しておこうか。)

 長いタカミナツ社の歴史からすれば、在籍年数や狩場に限らず、死者が出たり、部隊が全滅したこともあるらしい。

 自分の不勉強で、部隊を危険にさらす事態は避けたい。ましてや、レミに何かあったらと思うと……。

 と、思考が悪い方向に向かうのは良くない。そういう事を考えると、本当に悪いことが起こる、等とも言うし、今は別の事を考えることにする。

「ま、でもせっかくの週末だから、時間を有効活用したいな。出かけるなら、ちゃんとした美味しい物を食べたいし。この前話してた海鮮丼のお店、第二商業区だっけ?そっちに行かない?」

「それならぁ、そろそろ帰ろっかぁ。そっち方面行くなら、本屋も行きたいんだよねぇ。」

 確かにその辺りには、今時珍しい紙の本を扱う見せが多かったはずだ。

「え、また紙で買うの?電子ないの?」

「え?電子版ならもう買ったよ?良かったから、紙でも持っておきたいじゃん?」

「わかりかねる。」

「そうぉ?で、本屋行けるなら、早めに行って他にも色々見ておきたいし、早めに出発した方がいいかなっと思うわけぇ。」

「先に行ってていいよ。一段落した辺りで迎えに行くよ。まあ、そんな予定なら今日は帰りますか。あ、もう2時間半も過ぎてる。」

 そうして、先ほどからフォークを回すだけで手が進んでいなかった、パスタに目を向ける。

「これ、どうしよう?イマイチ、好みじゃ無かったんだよね。」

「食べたくないなら、残したらぁ?もう4品目なんだしぃ。」

「前の3品は美味しかったんだけどね。でも、もったいないじゃん?」

 そう思って、フォークに巻き付けたパスタを、口に運ぼうとした瞬間だった。

 轟音と共に身体が足元から大きく突きあがられた。そうして一瞬、身体が浮き上がると、そのまま床が顔面に迫って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る