第3話

 レミとは、狩猟部の同期入社で、かつ幼い頃から一緒にいる家族の様な存在だ。お互い17歳で、小学校からずっと同じクラスだった。

 因みに、二人ともタカミナツ社に正社員として登用されているが、一応はまだ学生だ。 

 今年一杯で卒業予定なのだが、卒業の年は大学進学に向けて試験勉強に充てられる仕組みのため、全員単位は昨年までに取り終わっており、就職組は授業がない。

 さらに私とレミは、昨年中にタカミナツへの入社が確定していたこともあり、会社と学校の計らいで、両方に在籍することになった。

 学校側が暇なので、会社側の業務を優先している状況だ。

 最初はアルデリアの都市「トヨクナイリ」の本社勤務だったが、宇宙での業務経験を積む、という目的で先月から銀翼の支部に転勤となった。

 なお、再来月には体育祭があるため、一時トヨクナイリに戻らなければならない。

(ああ、面倒くさい。単位取り終わったんだから、卒業でいいじゃん。

 あ、でも確か、今年の登校日に参加することで取れたことになる単位があったような……。

 いや、その仕組みが無駄じゃん。去年までに取れる様にすればいいじゃん。)

 一応、授業料は補助されているが、通学費や食費は自費なので、そういう面でも卒業してしまいたい。

 しかも、学校に通う際には、会社は有休を使用しなければならないらしい。仕事出来ないのだから、当然かもしれないが。

 アルデリアに戻るだけでも、それなりに日数が必要になる。新人は有休が10日しか無いので、用事が終わり次第戻って来ないと、休暇が足らないだろう。

 1日でも欠勤扱いになると、ボーナスに影響するらしい。

 そう言えば、転勤の際には、移動期間に充てるための有休が付与された。もしかしたら、特別に使用出来る休暇があるかもしれない。後で先輩の誰かに聞いてみよう。

 移動費は、手当が出るらしい。

 ただし、転勤の際にもそうだったが、一番安いプラン相当の金額しか出ない。

 一番安いプランは、シングルベッドを簡単な壁で囲って、荷物置きと、収納式の簡易な机を設えただけの部屋しか、利用出来ない。

 シャワールームもトイレも共用のしか無く、使いたい時に満室だったりすると、結構なストレスだ。

 一応仮にも、タカミナツは大企業と呼ばれる企業なのだ。ワンランク上の料金まで出してくれればいいのに。

 そもそも、ランクアップしても、料金は1.5倍までも増えなかったはずだ。

 レミはそれでも楽しんでた様だから、余程宇宙船が好きなのだろう。

 銀翼に来てからも、暇があれば、展望や港に足を運んでいるらしい。

「でも確かに興味がないとぉ、展望は退屈かもね。暁星見るだけだと、入場料も高く感じるかもねぇ。

 展望って、どこのレストランも、ご飯美味しくないんだよね。」

「それは残念。ご飯が美味しいなら、一度は行ってみたいと思うんだけどね。」

「よく言う、粘土に香りを付けてぇ、所々にビスケットを砕いてかけた様な?そんなのばっかり。」

 合成食品の典型的な表現だ。

 私たちの出身地であるアルデリアでは、食材の多くがいまだに田畑で栽培されている。

 魚介類も殆どが海や川、あるいはその周囲に造られた養殖場から供給される。そのおかげかは不明だが、アルデリアの食事はどの都市でもバリエーションが豊富で、味も奥深く、スペースコロニーや月面都市のどの食事よりも美味しいと言われる。

 アルデリア出身者はよく田舎者と呼ばれるのだが、舌だけは良く肥えている、とも言われる。

 飲食業にかかわる者は、アルデリア出身が多いらしい。様々な食材を食した経験が他の出身地より優位なのだとか。

 私たちが生まれる前は、動物の肉も食べられていたらしいが、その味を知っていると、宇宙の食事は喉を通らないほどなんだとか。

 そんな中でも、合成食品と言われるジャンルは特にひどく思える。サプリメントに腹持ちの良い…なんだあれ?謎の、本当に粘土みたいな何かを加えて、専用の3Dプリンターで成形して作られる。

 触感を追加するために、焼成したり、ビスケットの様な何かや、繊維質の何かが付加されて、最後に香料と調味料で味付けされる。

 調味料も、砂糖や塩では無く、本当に合成調味料で。

 様々な料理が一つの機械で再現され、栄養バランスもいいとのことで、簡易な食堂ではよく遭遇する。

 が、私はどうしても好きになれない。アルデリアの食事全般が、噛めば噛むほど味が広がるイメージなのに対して、噛むほどに味が無くなって、食感だけが残る感じだ。

 ガムに近いかも。

 しかも時々、辛味だけが残る。

 初めて食べたときは、何かの罰かと思ってレミと一緒に泣いてしまったほどだ。

(食堂のおばちゃん、ごめんね…)

 そんなのでも、コロニー社会ではかなりの普及率らしく、家電量販店には入口付近に最新モデルが並んでいるし、コンビニに行けば各メーカーのカートリッジが並んでいる。

 ダイエット向けとか、美容や健康にいい配分とか、種類も豊富だ。

 携帯端末から遠隔操作が可能なモデルもあるので、例えば帰宅途中に操作しておけば、帰ってすぐに出来立てを食べるという使い方が出来るらしい。確かに便利かもしれない。

 仕事帰りに友人と飲食店に寄って、ダラダラとおしゃべりして、時間を浪費することもないかもしれない。

 いや、レミとの時間は心の健康維持のために必要だから、夕食はなるべく今のままがいい。

 まあ、それなら私には必要ないか。

 だが、ここまで考えていたら興味がわいてしまった。

「あれって、しっかり噛むから不味いんだと思うんだよね。そんなに固くないから、軽く噛めば飲み込めるんだし、今度また挑戦してみようと思ってたから、ちょうどいいかな。」

「その理由で展望に行くの、どうかと思う……。」 

 せっかく、親友の誘いに乗る口実を考えたのに、却下されてしまった。

「で、何で合成食料食べに行くんだっけ?」

「違うよぉ。狩り場の話ぃ。展望から見えるかもしれないから、事前に見ておこうかって。」

(あ、そうだった。)

 呆れた様な表情をされたが、まあ口元は笑っているから、大丈夫だろう。

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