第5話
「私の名前は、リリア。タカミナツスターク株式会社宇宙技術開発統括部、製品技術開発部、制御支援システム開発課所属です。型式番号、LP000001。シリアルナンバー302105170003です。人型コミュニケーション端末、正常通りに起動しました。」
内部記憶に保存していた、セリフを読み上げる。
これは私が、隣に立つ人物、宇宙技術開発統括部、製品技術開発部、制御支援システム開発課の課長であるエシルに、人型コミュニケーション端末を起動するたびに行っている習慣だ。
「ありがとう。新しい身体は、問題無い様だね。」
こちらの様子を見て、満足そうに告げてくる。顎の高さで揃えられた黒髪、優しい印象を与えるややたれ気味の眉、はっきりとした二重と黒い瞳。
背は高くも低くもなく平均的で、細見。現在の自分と同じ様な体格だろう。
見た目から推測する年齢は20代後半から30代前半。しかしながら、現在45歳8ヵ月だ。
「はい。今回の身体は非常にいい出来ですね。」
そう言って、改めて鏡に映った自分自身の姿を観察する。
先日完成されたばかりの身体は、鮮やかな青い髪、赤紫色の瞳、きめ細かい白めの薄橙の肌。人工皮膚だが本物の人間の肌の様だ。
褐色や薄桃色、ツートーン等も選択肢にはあったが、やはりこの髪色にはこの肌が合うと思う。
さらには、ふっくらとした頬に薄桃色の唇。十代後半から二十代前半の様な顔立ち。
我ながら惚れ惚れする程、可愛らしく仕上がった。
割と細身の印象の体格でありながら、胸と臀部は膨らみがあり、とてもバランスよく見える。
更には、それを引き立たせるかの様な、白地に黒と青の指し色の入った、コンパニオン風の衣装が非常に良く似合っている。
以前は肩幅や腰回りがもう少し太めで、力強い印象があり、あまり好きではなかった。
今回は技術が向上したこともあり、自分の要望をかなり実現することが出来た。
これならファッションモデルも務まるかもしれない。
今度広報部に提案してみよう。
「それならよかった。機能的にも問題ない?」
「……。」
(あ、忘れてた。)
あまりにも、外見が期待通りだったため、そちらに気が行ってしまった。
慌てて内部メモリーを確認するが、特にエラーは出てい無い様だ。
起動に一度失敗して再起動している様だが、現在は正常に動作出来ているので、問題ないだろう。
「起動時に、一度再起動した様なのですが、現在は正常起動出来ていますので、問題ありません。」
「今、ログ確認するの忘れてたよね?自分の身体なんだから、そういうの優先的にやってね。」
人間とは違って、表情をあえて動かさなければ顔にも出ないし、バレないはずなのだが、何故かエシルはこの手のことによく気が付く。
「と言うか、やっぱり再起動入るんだね。ベースソフトを書きこむ時に、何か起きているのかな。
次回起動時にも問題がある様なら、また教えてね。」
(やっぱりって、どういうことですか?)
身体の完成検査の際にテストデータを書き込んでいるはずだ。
おそらく、その時にも同じ現象が発生したのだろう。
(だったら、事前に言っておいてよ。)
「あと、シリアルナンバーは、『4』ね。この前、本体もアップデートしたんだから。」
(あ、そっちも忘れてた。)
慌てて、内部メモリーを書き換えおく。
自分の本体は別にある。
本体には顔も手足もついていない、箱型のサーバー上で稼働しているが、人間と何らかの作業を行う場合は、この人型の端末を起動することにしている。
別にこの身体が起動に失敗したところで、本体には影響はないのだが、仮に本体が故障したときにはこちらがバックアップになるのだ。
不具合があるとなると、万が一の事態にデータが紛失されてしまう可能性もあり得るではないか。
「まあ、緊急事態だったから。ごめんね。」
一応、こちらの不満は伝わったらしい。
(表情を変えていないのに、どうしてわかるのだろうか?)
「あと、さっきの起動時のセリフなんだけど……。
いや、今はいいや。後で、落ち着いたら話す。」
「えー、めちゃくちゃ気になるんですが……。」
「そうだろうけど、今の状況だと優先度高く無いし……。
だから、悪いけど本題ね。早速のところ申し訳ないんだけど……。」
とそこまで言って、エシルの言葉が止まる。何から説明すべきか整理しているのだろう。
それなら、その間に起動時のセリフの何が気になったのかを教えて欲しい。が、流石に無理か。
そう言えば、人間は並列には思考が出来ないのだった。
ならば、ここは私の有用性をアピールする、いい機会だろう。
「あ、状況でしたら、多分認識しています。」
先ほど、私たちがいるスペースコロニー銀翼が大きく揺れた。
多少のスペースデブリの衝突ならそれほど振動が伝わらない構造になっている銀翼で、場所によっては人の身体が浮くほどだ。
もしかしたら、負傷した人間もいるのではないだろうか?
しかも小規模な揺れは、現在までも続いている。
エシルも、銀翼に発生した問題が、まだ解決していないと予測しているのだろう。
現在、私の本体は会社内の防犯カメラや通信機器等に接続出来る権限を与えられている。
一般公開されているライブカメラであれば、公共の物も見られるため、銀翼内の多くの情報を収集することが出来ている。
今私に期待されていることは、収集出来る情報から、銀翼内の状況を分析し、社員にとって最適な行動を提案することだろう。
「簡単に私が把握している情報と、おすすめの対応方針をお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「じゃあ、お願いね。私もちゃんとは把握できていなくて。」
「承知いたしました。
まずですが、銀翼内で3X同士の戦闘が行われています。一方は、コロニー銀翼の警備軍の物で、もう一方の機体は所属が不明です。
所属不明機はコロニー中央、商業地区付近で発生した爆発の際に銀翼内での活動を開始しています。相当な火力と機動力を保持していると推測できます。」
3Xとは、タカミナツスターク社でも製造されている、大型の戦闘用ロボットだ。
人型に近い形状をしていて、通常は両腕にあたる場所に強力が武器が搭載されている。
背部や脚部等、全身に推進装置があり発行して見えるため、夜間でも概ね形状が判別できる。
ライブカメラで見たところ、飛行する光は8カ所ある。
光の種類が2種あるのと、時々周囲に爆発が起きていることから、明らかに戦闘中と言う事が分かる。
一方の光が2、もう一方が6。6の方は銀翼市の警備軍の機体だろう。必要最低限の装備の一般的な3Xの形状をしている。
もう、一方はあちこち尖った部位が見える。さらには、両肩の後方にもう一対腕と言うか、翼の様な部位がある。
時々強く光ったり、光の玉が飛び出すことから、推進装置と武器を兼ねているのだろう。
「ぱっと見、良い機体ですね。攻撃力も機動力も警備軍のより上の様に見えます。
何より、背部の装備が翼の様でおしゃれです。
ただ、弊社の新型3Xであれば、十分に渡り合えます。すぐに警備軍に支援を打診し、出撃して対象を捕獲するのがよろしいかと。」
「今、そういうのは良いから……。」
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