第1話 王太子の婚約者選び
今日は1年前に終わった戦争の終戦処理で各地を飛び回っていた王太子が、ついに王都へ帰還した、その祝賀パーティーである。祝賀パーティーという名目はあるものの、実質婚約者のいない王太子の婚約者選びといっても過言ではない。
そんな洗練された紳士淑女が集うホールに、場違いな装いの女性が一人歩いている。足に合わない靴を無理矢理履いているせいで、歩みは優雅とは言い難く、先に到着していた子女たちの談笑が、彼女に気づいた瞬間ふと途切れる。そして嫌なものでも見たような嫌悪の眼差し、ヒソヒソ声。聞こえなくても何を言われているのか想像はついた。
エリスは挫けそうになる気持ちを奥歯を噛んで押し殺し、自分はこれでいいのだと、勇気を振り絞ってとりわけ人の集まっている集団へ近づいていった。
「ちょっと失礼。通してくださる?」
お願いの体裁は保っているものの、否やは聞かず、グイグイと体を割り込ませてその人の輪の中心へ向かう。そこにいる一際目を引く美貌の貴公子はこの国の王太子、レオナルド殿下だ。夜の闇より深い漆黒の髪、瞳はダークレッドで、興奮すると鮮やかな紅に変わるといわれている。
レディにしてはいささか乱暴にレオナルドの前に割って入ったエリスに気がつくと、彼は咎めるように冷たい眼差しでエリスを見た。
エリスは竦みそうになる気持ちを拳を握って抑える。
「初めまして、レオナルド王太子殿下。私と結婚してください。いいえ、私と結婚しなければいけませんわ、殿下」
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