第12話 王家一家の朝食
よく朝、レオナルドの寝室にその日の新聞が届けられた。
(グロワーヌ侯爵に動はなかったが、こっちがきたか)
新聞には昨日のパーティーで、下品にも胸も露わな女が王太子に迫り、そのまま側近と共に祝賀パーティーそっちのけで乱行に耽っていた、という内容の記事が載っている。記事はレオナルド王太子は戦争で大変な功績を立てたが、戦争が終わった今は王太子としての資質に疑問が残る、と締めくくっていた。
確かに戦争で華々しい結果を残したが、それ以前は良い為政者になるとは到底思われていなかったのは確かだ。
むしろよく変装して市井をぶらついていたり、高級娼婦のもとに通ったりと自堕落な人間と思われている。
王太子でありながら戦争に赴いたのも、長い戦争の中で下がっていた王家への信頼と忠誠心を上げる、という名目があった。
しかしそれは表向きの理由で、本当は王太子を排することで、まだ幼い第二王子を擁して、権力を握りたかった反王太子派の陰謀である。
バカ王子と密かに下げずんでいた王太子、当然失策を繰り返して泥沼の戦争をさらに混迷へと向かわせるはず、その責任を取らせて廃嫡へ追い込もう、と画策していたようだ。それがまさかの戦争を終わらせるほどの功績をたて、ついでに王太子の人気も著しく上がるなど、思いもしなかっただろう。その後も密かに刺客を送り込んできたが、ことごとく返り討ちにしている。
反王太子派にとってエリスのことは突然のハプニングだったかもしれないが、渡りに船とこれをうまく利用しようとしているらしい。
(場合によってはグロワーヌ侯爵もこの流れにのるかもしれないな……)
今後の展開を考えながら食堂へ向かう。
広いテーブルにはすでに母である王妃、15歳の妹のリーナ王女、7歳の第二王子フィリップが先についていた。
「おはようございます、お母様、リーナ、フィリップ」
王妃が手でこちらへ、と促すので、仕方なしに軽くハグして頬にキスを受ける。
この王妃、伏魔殿と言われる王宮で生き残っているのが不思議なくらい、慈悲深い女性である。
対象的に直情型の妹が早速噛みついてきた。
「お兄様、聞きましたわよっ‼︎ 元聖女とだなんて最低ですっ‼︎」
「それはどういう意味かな? 元聖女と一晩過ごしたことが問題なのか、相手が元聖女だからなのか….…」
まあっ、というように王妃が口元を手で覆う。リーナは真っ赤になって言葉が出ないというように口をぱくぱくさせた。その瞳も真っ赤だ。リーナは王家一族の証の感情によって変わる瞳を持っている。フィリップはいつものように身を竦ませている。
「どっちもですっ‼︎ 元聖女って本当は娼婦なんでしょう⁈ そんな人間を王宮に留め置くなんてっ‼︎ 空気が汚れますっっ‼︎」
「リーナ、お母様はそんなこと言われると悲しいわ」
あっ……とリーナが失言に気付いた。王妃は元聖女だ。
「もっもちろんお母様は違いますわ」
王妃は神殿の治療院で聖女として奉仕活動をしていたところを、王太子だった今の国王に見そめられた。子爵令嬢だったため相応しい身分ではないということで、当初愛妾の身分であったが、前国王が亡くなって正式に現国王が即位した際、正式な王妃がいなかったので愛妾から王妃になった。もちろん異例の措置であったし、反対する貴族もいたが、国王が押し切った。
レオナルドが生まれたのはまだ、王妃が愛妾の身分だった時のことなので、反王太子派はレオナルドは本当は諸子のくせに、と密かに下げずんでいる。
「それくらいにしなさい」
低く落ち着いた声が響いた。
「おはようございます、お父様」
皆が口々に父親である国王へ挨拶をする。
「昨日の件は聞いている」
「誰からどのような話を聞いたかは気になりますが、食事の間に簡単に済ませられる話ではなくなっているので、後で執務室に伺います」
「元聖女の話かしら? 私のところにも大聖女様から苦情がきてますの。私にも───」
「近々大聖女様のところにもお話しに行くことになるでしょう。私からきちんと説明するので安心してください」
王妃が元聖女なので、大聖女も文句を言いやすいのだろう。話に加わりたがる王妃を牽制する。
そうしていつもより和やかとは言いがたい朝食を片付けると、それぞれの執務に向かったのだった。
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