第7話 エリスの過去
エリスはプレンティス王国の西側、ブランシフォール地方で生まれた。それなりに豊かな地方であったが、飢饉から続く戦争の影響で、エリスが生まれたころはまだ膿んだような空気が社会全体に漂っていた。
そんな中で、生まれてすぐ強い魔力を有すると確認されたエリスは貴重な戦力として将来を嘱望されていた。しかも女性に珍しい攻撃系の魔力を有することがわかってからは男子と混ざって厳しい訓練を課せられていた。
領地の男たちは半数は戦争に行っていたし、子どもが通う学舎では当たり前のように戦闘訓練があったので、大人になったら戦場に行って戦うことを当たり前だと思っていた。だが14歳で戦場に行くことが決まったとき、早すぎる従軍に泣いて嫌がった。男性でも徴兵される年齢は18歳だし、魔力持ちは少し早いこともあったが、それでも16から17歳くらいだ。
理由は単純だ。ルリエール家の長男に徴兵招集がきたからだ。ずっと家存続に関わる男子の徴兵は免除されていたが、とうとうそれもなくなった。ただし、姉や妹などの女性を代わりに兵士として出せば免除という特例があったのだ。そしてルリエール子爵夫妻はあっさりまだ14歳のエリスを差し出した。
そうして、エリスはアルノーのに赴いたのだ。後からわかったが、国中で最年少の従軍だった。
「ルリエールは臆病風に吹かれてこんな小娘を寄越したのか」
当時アルノーの指揮官だったオットー伯爵が小馬鹿にしたようにエリスに言った。戦場が怖いと同時にまだ家族への情があった当時、そんな侮蔑に悔しい思いをしたのだった。
戦場に立つには幼いエリスを気遣ってくれたのは同じ聖女仲間のソフィアだ。当時22歳で彼女自身もまだ従軍して4年の若者だったが、強い治癒能力を持ち、後方支援の中心人物だった。
エリスは辛い中でも聖女仲間との絆やじわじわと上げてきた戦果で、それなりに充実した時間を過ごすことができていたのだ。
3年後、オットー伯爵が戦死して、あの男が来るまでは───
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