三
閑散とした車内の様子とは裏腹に、終点の
私たちは人混みから逃げるように駅を後にしました。逃げて避けて、何処へともなく放浪するのです。そうして辿り着いたのは、岬の突端に位置する八幡神社でありました。
見晴らしの良い
夏の名残りを感じさせる晴天と、隔てるもの無く広がる大海。空と海の境界もわからぬほど、視界が青一色に染まっているのです。汽車に乗り山を越え、終点まで辿り着いても
私は実の親に売られ、あの家に嫁いで参りました。このご時世、そう珍しいことでもありません。没落した家を救うべく
そんな旦那様も外では
私が耐え抜けばきっと事態は好転すると、そう信じて止まない日々でした。結局、私を売ったことで得た
それから一年。昨晩の出来事は偶発的ではなく、起こるべくして起こったのかもしれません。誰も彼も、私も、運命がそう定められていたのです。
「こっちよ」
想いに
参道とは反対側の坂道を降りると、浜辺が広がっておりました。遠目には深い青だった海も、近寄ると
そして彼女は着物の裾が濡れるのも
「お嬢さん、こんな所に一人で、いったい何をしているんだい」
偶然通りかかったであろう老人が、不思議そうな目で私のことを見つめておりました。私は行き場を失った手をぎゅっと握りしめ答えます。
「ええ、まあ、少し……観光をと思いまして」
「そうかい。別に眺めてるだけなら構いやしないけどね、遊ぶのなら海水浴場へ行ったほうが良いよ。漁港を挟んで向こう側だ」
「ご親切に、どうもありがとうございます」
老人の背を見送り海に目を向けると、彼女は相も変わらず
最初から、たった一人の死出の旅でしかありませんでした。私が私自身を
私が創り出した私は、よく手入れされた
死は、生きとし生けるものに平等に訪れます。人間など所詮は血と肉の詰まった袋でしかないのです。成した偉業や犯した悪行も時と共に薄れ、死してこの世に残るものなど何一つとしてありません。だからこそ、私の体に残る痣も心に刺さった棘も永久のものではないと思えるのです。
私もまた、醜い血肉となって最期を迎えるのです。まだ暑さの残る夏の日に死に逝くのです。思うようにならなかった生涯で、最期にただ一度だけ、
晩夏に棄てる 十余一 @0hm1t0y01
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