苦味が残る物語

一見、vtuberといった現代的な舞台装置に目がいってしまいますが、
シニカルな雰囲気を捨てきれない登場人物たちの、
短く切り捨てるような文体がそれ以上の存在感を出しています。
言葉から想像できるような華やかさはほとんどありません。
世間的にイヤミスと言われる要素もありますので、
万人にお勧めすることも、個人的には難しい。
正直なところ、最後の章は読む人によってはすごく感想がわかれると思います。
自分も決して納得できたとは言えません。
彼女が最後に手にしたもの…それの意味することを考えるとなおさら。

でも、このすれ違いと思いやりと純粋さはどこかしら学生時代を過ごした人は経験しているのではないでしょうか。
自分の手が汚れるのも構わずに誰かを庇ったり。
失うことを恐れてさらに失ったり。
登場人物全員がちゃんとそれぞれの方向を向いている。
ご都合主義に流れないで、それぞれに進んでいく。
複雑なトリックなどではなく、その方向性の違いから謎が生まれ、絡み合っていく。
その点で、矛盾するようですが万人向けだとも言えます。
これは学園を超えて、少年少女の思いが生み出す青春のミステリーだと思いました。

先に書いたように、短い文章で切り付けていくようなリズムのおかげで、
どんどん読み進めることができます。
苦しくも切ない物語ですが、そのおかげで止まることなく物語が進んでいく。
苦味を思い出すことができる良いミステリです。