バイト

 始業式から数日経ったある日のこと。


「ねぇね今日帰ったらなにする?マリカー?大乱闘?」

「あ、ごめん。俺今日も喫茶店のバイトが……」

「むぅうう。じゃあいつ帰ってくるの?」

「えっと……今日は最後までだから8時くらい?」


 そう、俺は最近近所の個人経営の喫茶店働かせてもらっている。時給1200円という割のいいバイトなので目的を達成した後もしばらく続けるつもりだ。


「何か欲しいものでもあるの?」

「うん。まぁそう。だけど一日働くのは今日だけで来週からは2、3時間程度で収めるつもりだから」

「ふーん。……今日はステーキだから早く帰ってきてよね」

「わかった!」


 そう言って俺は学校へ向かった。


 △▼△▼△


「大樹今日空いてる?」

「今日はバイトあるから無理だ。ごめん」

「最近大樹はバイトばっかり。何やってるの?」


 そう言って、輝夜がその綺麗な顔を寄せて、じっと見つめてくる。いくら幼馴染とはいえ美人に見つめられるとドキマギするわけで、目を逸らしながら答える。


「欲しいものがあるから近所の喫茶店で働いてるんだよ」

「喫茶店……今日行ってもいい?」

「え?別に喫茶店なら俺のとこじゃなくてもいいんじゃないか?」


 そう言うと輝夜は何やら不機嫌そうに顔を顰めた。いや、何で?俺としては知り合いにバイト先で会うのは気恥ずかしかっただけなんだけど。


「俺は大樹が働いてるところ見たいからついていくぞ?」

「え、やだ。やめてよ」


 △▼△▼△


「ご注文の抹茶ラテとアメリカンコーヒーです」

「ありがと大樹」

「似合ってるぞー大樹」

「お前ら……」


 今私の目の前にかっこいい制服を着た大樹が立っている。あ、思わず顔がにやけちゃう。


「大樹、写真撮っていい?」

「え?……まぁいいけど。今あんまりお客さんいないし」


 そう言ってポーズを取ってくれる給仕服を着た大樹はいつもに増してかっこいい。大樹は顔だけ見ると、普通より整ってる方ではあるけど目立つほどじゃない。だけど、こうやって動作が伴うとすごくカッコ良くなる。だから、実は女子から結構モテたりしてるのは秘密だ。

 ちなみにどうやって秘密にしてるかというと、とにかく大樹にベッタリして女避けをしてる。この行為を大樹に納得洗脳させるのは大変だった。最初は小5の大樹にすごく抵抗されたから。


 そのあと、お客さんが増えて他の席に運んだり仕事をし始めた大樹を私はバレないようにずっと目で追ってしまう。


「なぁ輝夜は大樹に告白しないのか?」

「……この関係が壊れるのが怖い……かな?」

「ふーん」


 そうやって興味なさげにしているコイツ。久志も本当は私に負けず劣らずの大樹好き。


「俺は一応お前の味方だけど、それよりも大樹の味方だ。大樹にもし、好きな人が出来て尚且つその人に問題がなかったら俺はそっちを応援するぞ?」


 ほら。やっぱり大樹のことが大好きだ。一時期私は久志がゲイなんじゃないかと本気で疑ったほど。今だって、横目で大樹が面倒な客に絡まれないか気にしてるし。


 ――ピロン♪

 ――ピロン♪


「……久志仕事」

「輝夜もだろ。ほら行くぞ」


 名残惜しいけど私たちは、この落ち着いた雰囲気の漂う喫茶店『不語仙』を出た。


 え?大樹の何処が好きなのかって?それは……勘のいいところかな。

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