大家さん
服装よし!爪よし!髪型よし!笑顔もよし!
「なにやってんの」
朝俺が洗面台の前でチェックをしていると、ユリアが呆れたように俺を見てきた。
「なにって、身だしなみのチェックだよ」
「なになに?今日もしかして女の子とデートですか?」
「ハハッ。俺に彼女ができるわけないじゃん」
「うん。なんかごめんね?」
ふっ。一応見てくれは平均くらいだと思うが、いかんせん俺は家事力ゼロという巨大なマイナスポイントがあるのだ。や、別に出来ないわけじゃないんだ。ただやると母さんのところに親父のパンツが入ってたり、タンスの中にフライパンが入ってたりしちゃうだけなんだよ!(致命的)
「今日は大家さんが様子を見に来る日なんだよ」
そう大家さん。俺はほとんど部屋から出なかったからまだ会った事ないんだけど、俺の胸は期待でいっぱいだ。だって大家さんだぜ?しかも親父情報によると若いらしい。そんなこと聞いたら、和服に割烹着を着たゆるふわ系のお姉さんを想像しちゃうだろ?……ん?お姉さんじゃなくて色気増し増しの未亡人だろって?まぁそこは嗜好の相違だな。
「男ってほんとそうだよねー」
「なにがだよ」
「私のクラスの現文の先生って若かったんだけどさ、その時間だけクラスの男子みんなちゃんと授業聞いてたんだよね。つまりさ、大樹君のもそうでしょ?」
そんなこと……あるわ。大人の美人に俺たちは弱い。男とはなんて単純なんだ生き物なんだっ!
――ピーンポン
微妙にテンポのズレた呼び鈴が鳴った。
「はーい。今出まーす」
そう言って俺が扉を開けたその先には――
「よぉ。久しぶりだな森山」
「なんでここに先生がっ!?」
「先生は副業で大家やってんだよ」
そう言い放ったジャージを着て、髪を後ろで一つ纏めた野生味のある女性は、柊 刹那先生。倫理担当の先生で俺の部活の顧問だ。
「それより、中入らせてもらうぞー」
「え、ちょ待ってください!?不法侵入ですよ!?」
「安心しろ。お前の両親から一人暮らし1週間のお前の現状を見て欲しいって頼まれてんだわ」
「そんなバカな!?」
信じられない、いや信じたくないだけだけど親父達が生活力皆無の俺に一人暮らしを許可した理由がこれなんだろう。確かに顧問という顔見知りが大家をやっているなら頼み事もしやすいしな。
「ほーう。かなり片付いてるな。これならお前の両親にもいい報告ができそうだ」
「あ、そっすか。ありがとうございます?」
中にツカツカと勝手に入った先生が周りを一通り見渡して感心したように言った。
「それならもう大丈夫ですよね」
「ん?そうだが」
「じゃあもう帰りになられるという事で……」
これが初対面の美人さんだったら違うけど、流石に部活の顧問に部屋にいられるっていうのは結構落ち着かない。だから早く出ていってほしいんだけど……
「……なぁ、森山お前竜胆を家に呼んだか?」
「いえ、まだ輝夜どころか誰も呼んでないですし来てませんよ?」
そういえば何故か輝夜達から家に来たいって言われてないな。まぁ読んでないからなのかも知んないけど、あの2人が来たがらないなんて珍しいこともあるもんだ。
「おかしいな。家の片付け方から女の気配を感じたんだが……」
――ガタン!
――ゴンッ!
「つ゛ぅ〜〜!」
『いったーい゛!』
先生の女の気配発言に思いっきり動揺した俺は小指をテーブルに、ユリアはタンスに頭をぶつけた。
「大丈夫か?」
「はぁ゛い。だい゛じょう゛ぶでず」
「大丈夫じゃなさそうだな。」
『わたち゛も大丈夫じゃないぃ』
本当は大丈夫じゃないっす。
痛みを堪えるためしゃがんで小指を押しつぶす。これをやっておかないと爪が剥がれたりするから大事なんだ。
そして先生は「あ、そうだ」と呟き痛みに悶えているしゃがんで俺に目を合わせてきた。
「なぁ森山。この部屋に引っ越してから怪奇現象的な物に合わなかったか?」
――ガタン!
――ゴンッ!
今度は俺が膝をテーブルにぶつけ、ユリアが天井に頭をぶつけた。そんなに頭打ってるとばかバカになるぞ?
「つ゛ぅ゛〜〜!」
『うぐぅう!』
「お前大丈夫か?もしかして幽霊とかそっち系苦手だったか?」
「だい…じょう…ぶ…です」
ここで怪奇現象って言ってくるって事は、ここ元から曰く付き物件だったのか。確かに親父が部屋探し忘れてたのにこの土壇場でこんないい部屋が借りられるわけがない。それこそ事故物件だとか、超古いアパートだとかじゃないとな。
「そうか。それならよかった。お前の親父さんがどうしてもっていうから一万円で貸したんだが、もしお前が滅入ってるようだったら私が実家に帰って、一時的に下の私の部屋を貸そうかと思ってたんだよ」
マジっすか。家賃一万円て。一括払いって言ってたから3万とかの格安物件なのかと思ってたけど予想の上を言ってたな。いや、曰く付きならこれが普通なのか?わからん。ん?なんかユリアがこっちにアピールしてるな。あれは口パクか?
で・て・い・た・ら・家・事・や・り・ま・せ・ん
「今のところ大丈夫なんでこのまま住みますよ」
「そうか?」
「はい。余裕のよっちゃんなんで」
「ならいいが……まぁなんかあったら対応するから学校外で声かけろ。多分だが生徒が教師のアパートを借りてるのがバレるとめんどくさい事になるだろうからな」
「わかりました」
そう言って先生は玄関に向かって行き、バタンと扉を閉めて去っていった。
「ふぅぅう……緊張したぁ」
「私も緊張したよ。大樹君引越しさせられるのかと思ったもん」
「ん?なんだ?ユリアは俺がいなくなると寂しかったのか」
「ち、ちが「分かってるよ。俺が1人になったら、健康面が気になって気が気じゃないって事だろ?」……うん。そういうこと」
その後、なぜかご機嫌斜めだったユリアは俺の嫌いなピーマン料理を作るという飯テロを起こし、俺はかなり頑張ることになった。
ピーマン苦い
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