新しい日常
朝起きると、気持ちのいい朝日と共に朝食のいい匂いが漂ってくる。
「おはよー」
「おはよう!大樹君!」
うむ。朝から溌剌とした銀髪美少女を見るのは目の保養になるな。
「はい!今日はお米とコーンスープとスクランブルエッグだよ」
「おおー!うまそう!」
ユリアの作る料理ってこう、なんていうかただ美味しいんじゃなくて、人の温もりっていうのを感じるんだ。いや、人じゃないんだけどさ。とにかく俺はこの一週間で人は一人じゃ生きていけないって事を学んだ。
「美味かったわ。作ってくれてありがとな」
「んふふっ。どういたしまして」
あと、ユリアは何故か俺が飯を食ってる時は目の前に座ってずっとニコニコしながら俺を見てくるんだよ。んで、こうやってお礼をいうとすっげえいい表情で笑うんだ。野郎の食事の何が面白いんだかわからないけど美人の笑顔は見たいから毎回ちゃんと言ってる。それに人として当たり前のことだしな。お礼は。
「じゃあ行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
そして俺は財布とメモとバックを片手に外に出かけた。その足で近所のスーパーに向かう。ここまで聞くと家事力ゼロのお前が?と思うかもしれないけど、良心の呵責以外にも俺が買いに行かにゃならん理由があるのだ。
『地縛霊?』
『そう。私結構未練が残ってるみたいなんだよね。それで私はこの部屋の中心のここから半径七メートルしか移動できないんだ』
『それは……結構辛くないか?』
『ううん。最近はもう慣れたし、暇になったら隣か下の部屋にちょっとだけ顔だしてテレビを見れるから大丈夫』
『そう、か……』
なんて事があったのだ。そんな話を聞いてしまうとこの俺も何も感じないということはないわけで、スーパーに行く途中にあるとある店にバックから一枚の書類を取り出しながら中に入った。
△▼△▼△
「ただいまー」
「おかえりー」
一通りの目的を達成した俺は意気揚々と家に帰ってきた。
「何かいいことあったのー?」
「んーなんにも?」
「絶対なんかあったと思うんだけどなー。まぁいいや。荷物もらうね」
「お、サンキュー」
そう言って俺は台所に向かっていくユリアに続いて家に上がったのだが………一連の流れを思い出して悶絶する。
(なぁにが「いい事あった?」「なんにも?」だぁ!?なんだ!?新婚か!新婚だったのか!?あ゛あ゛あ゛あ゛!!)
この時の俺は自分のことで手一杯だったから、前を歩くユリアの耳がほんのりと朱に染まっていたことに気づかなかった。
△▼△▼△
「おー。じゃーな輝夜」
そう言って俺が電話を切ると、目の前にはニヤニヤとしたユリアが浮かんでいた。
「どした?」
「いーや?なんでも?ただ青春してるなーって思っただけだから」
「なんか勘違いしてない?輝夜はただの幼馴染だけど?」
「いやいや。ただの幼馴染が毎晩電話してくるわけないじゃん」
ユリアこそ何言ってんだ?付き合ってなくても夜に電話するくらい、仲のいい友達だったらするでしょ普通。
「なにこれくらいで騒いでんだか」
「なに言ってんのかなこの童貞は。それが普通なわけ……ん?このくらい?……他にはなにしてんの?」
他か……なんか、俺の部屋に泊まったりしてたのは言わない方が良さそうだな。勘だけど。
「歩いてる時腕組んだり「恋人?」お弁当作ってくれたり「新婚?」お返しに和菓子買ったり「熟年夫婦?」色々やってるぞ?」
「た、太樹君はその事に疑問とかないの!?」
「……?小学生の時からこうだったけど?」
そう言うと、なぜかユリアは部屋の隅っこに行きこっちに聞こえないくらいでブツブツ呟き始めた。
「え?なに?これが今の幼馴染なの?私が死んでからたった三年でここまで価値観が変わっちゃうの?それともこれがジャパニーズカルチャーなの?爛れた関係がデフォルトだったの?花の高校生だった私が気づかなかっただけなの!?」
なんかいじけてるっぽいユリアに近づくと、いきなり彼女が振り返り俺の肩を掴んできた。
「おおう!?」
「ねえ!もしかしてその輝夜って子ビッ、じゃなくてこう……男の子と遊ぶの生きがいにしてる感じ?」
(もしそうだったら、太樹君にその子と距離を取らせないと)
「いや、輝夜は結構身持ち固いぞ?物静かっていうか、あれだな落ち着いてるって感じだ。基本俺たち幼馴染以外には手すら触れさせないぞ?」
そう言うとユリアはますます顔が険しくなり、頭の上にハテナを浮かべた。……すげえなそれ。どうやってんの?チリを念力とかで操作してんのかな?
「いや……でも……んんん?……もうわかんないからいいや」
「いいの?なんか迫力すごかったけど」
「いーの。ほら、早くお風呂入ってきて。もう9時なんだよ」
「りょーかい」
そう言って俺は風呂に駆けていった。
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