ユリア
「悪霊だと思ったら美少女幽霊だった件」という小説が書けそうな場面に出会った俺は今、正座をさせられて説教を受けていた。
「ねえ、塩を撒くってなに考えてるの?砂糖じゃなかっただけマシだけど、これ掃除するのどれだけ大変なのかわかってるの?ううん。わかってないからこんな事するのかな?ねえ?」
「はい、わかってませんでした」
「それに、その短刀。本物だよね?刃渡り17センチくらいかな?6センチ以上は銃刀法違反だよ?社会的に死にたいの?そうだったんだね?」
「死にたくないっす。すんません」
めちゃくちゃ正論なだけに反論ができない。あと、物理的に死んでる方からの「死ぬよ?」は重みが違うっす。まじちびりそうになった。と、まあこんな感じでさっきから怒られてんだけど、ちょっと気になる事が一つ
「あの、なんで元気なんですかね?」
「何?幽霊なんだから頭から包丁生やして血でも流しとけってこと?」
「違う違う!そうじゃなくて塩を被っただろうになんで元気なのかなぁって」
「あ、そのこと?」と言いながら、さらっとハーフアップにした髪をクルクルいじる……ヤバい。こう、ちょっと見えたうなじとか最高っす。惚れるかと思いました。
「食塩が効くわけないじゃん」
と言って彼女が目線を向けた先には、赤い字で食卓塩と書かれた空の瓶。……確かにその通りだわ。
「ねね、私も聞きたいことあるんだけどいい?」
「あ、はい。大丈夫っす」
「なんで短刀用意してたの?お札とか錫杖とかじゃなくて」
「ああ、それには深く長い訳がありまして」
「ならいい「あれは中学2年の夏」……話したいんだ」
なぜか、諦めたようにため息をつく彼女。まぁ俺は気にしないけど
「その頃の俺はエクシストの漫画にどハマりしていて、自分もなりたいと思った俺は延暦寺に行ったんよ」
「教会じゃないの?」
「うち檀家なんで」
やっぱそこら辺の義理を通すのは大事よ。
「最初は門前払いを受けたんですけど、3時間ほど正座して粘ったら中に入れてくれました」
「三日じゃないんだ」
「今の時代13才を三日も放置したら、警察沙汰どころかワイドショーの格好のネタになるからそんな事にならないんだ」
「世知辛いね」
今の時代三時間でも結構だけどね。
「そんで中に入れられた後、俺の熱い思いを語ったらある人を紹介されたんだ。それでその寺に行った俺は運命に出会った」
「美女の尼さんでしょ」
俺も期待してたよ。ボンキュッボンの尼さん。
「顔に傷があって片目に強面僧侶」
「ヤクザ?」
元ヤクザだって。現実は無情だ。
「それで
『ああ?札の作り方?んなもん覚えたって霊相手にゃ役に立たねえよ。一番いいのはそう……短刀だな。錫杖みたいな鈍器は素人でも扱いやすいっていう利点はあるがぁ、やっぱり刃物の方がいい。それに短刀は携帯性が高いのもいいな。しかも退治できんのは霊だけじゃないしな。ガハハハ!』
「刃棘さんはなんて言うか……すごく前衛的な人で教えてくれること全てが刺激的だったんだよな」
「だと思った。刺激的すぎて怪我しそうだもん」
「あとは、刃棘さんが神道も知っておいた方がいいってことで神主さんを紹介してくれたんだよ」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「その人、天斬さんは「神様きってるじゃん」すごい人だったんです」(天に神が住む=神)
そう。最初はあのメガネをかけたインテリっぽい人に霊を
『ねえ。神主がさ、お祓いする時に唱えてるのって祝詞っていうでしょう?。けれどこれって、君がとても人の事恨んでる時にただひたすら
「って、教えてくれたんです。だから
「え、怖い。私あのままだったら延々と呪詛はかれてたの?」
「えっと……そうすっね」
「やはは」と笑って誤魔化すしかない俺……というかこの人どうしよう。なんかもう
「
「……今本音と建前が逆転してたよ?」
「やべっ!?」
クッ!つい師匠たちのクセが移ちまった!?
「ねえねえ。頭抱えてるとこちょっと良い?」
「ん?なに」
「私と契約しない?」
「そう契約。私がここに
「そんなの認められ「代わりに家事やってあげる」お願いします」
うん。一瞬否定しかけたけど、この人めっちゃ良い人。家事やってくれる=正義。これ間違いなし!
「それじゃよろしくねっ大樹君!私はユリア!」
「こちらこそよろしく!ユリア!」
そう言ってこれたちは握手を交わし笑顔を浮かべた。
「そういえば、なんで途中からお世話してくれるように?最初は明らかに嫌がらせしてたのに」
「あーそれは。最初は今まで通り追い出すつもりだったんだけど、太樹君ってなかなか気づかないもんだから途中でやめちゃった」
「……?それだとお世話の説明に――」
「あー!そうだ!早く塩回収して!どんどん畳の中にはいっちゃうから!ほら!」
「やっべ!?結構踏んじゃったかも!?あ、お香落とした!?」
ギャーギャー騒ぎながら塩だのなんだのの片付けをして……なんとなくだけど、一週間ぶりに思いっきり笑った気がした。
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